しかし『ハムネット』のあのシーンとか、『プロジェクト・へイル・メアリー』のあのシーンとか、情緒を揺さぶられる感動シーンで、実際に情緒が揺さぶられて感動するまでの「間」ができているというか、年々、自分の情緒が揺さぶられることについて自動的に拒否反応や抵抗が発生してその拒否反応や抵抗を押さえつけた後にようやくタイミング遅れて感動できる…という風になっている自分を自覚してイヤなところがある。
これも「年を経ると感受性が鈍くなる」ということの一環か。あるいは有害な男性性とやらなのか…
まあこの現象自体を内省して後からじわじわと感動できるようにはなっている。でもやはりリアルタイムで感動したいですね。
Posts by ベンジャミン・クリッツァー
というわけで『ハムネット』、とても良い作品でしたね。
そもそも暗い事態ばっかり起きるし上映時間が長いので、後半は疲れちゃって集中力が切れかけたところ、それもこれも終盤のあのシーンのための「溜め」であったことがあのシーンで突きつけられて、おもわず泣きそうになるくらい感動する、というある種理想的な映画。映画館で見なきゃダメですわね。
先ほどの本の感想でも触れたけど、あの文学も演劇も未熟な時代におけるポッと出のようなシェイクスピアがこの時代まで残る名作をいっぱい生み出したという奇跡について、その奇跡っぷりをアン・ハサウェイからの視点と物語を通じてまざまざと表現したという、そんな映画だと思いました
そのオースティンも「マンスフィールド・パーク」などの背景にある植民地主義の問題は指摘されていたり。
一国の文学とは「近代」であり「言語」を成立させる「国民国家」のものである、という指摘も久しぶりに聞いたな感がありました。
ユートピアとディストピアを扱った章における「ユートピアを書いた文学はどれもつまらない、ディストピアじゃなきゃ面白い文学にならない」という指摘、逆説的に、やっぱり文学だけじゃダメで、面白くなかろうがユートピアについて語る哲学なり社会科学なり(あるいはS・ピンカー的な啓蒙的読み物なり)が必要なんだな、ということを再認識した。
哲学といえばカフカとサルトルの繋がりも印象に残った
トマス・グレイの「田舎の教会墓地で書いた挽歌」(墓畔の哀歌)の…詩の文章そのものは紹介されないが…「ここに眠るどれほど多くの人が自分と同じくらい詩の才能に恵まれていたにも関わらず、その才能を生かすだけの社会的立場や特権に恵まれなかったことかと考える」(p.264)およびヴァージニア・ウルフによる「声の出せぬ不名誉なジェイン・オースティン」の指摘は、かなり胸に来るものがあります。
特に前半、シェイクスピアやオースティンやブロンテ姉妹といった特異点的な才能と作品が登場して現代に残っているのは奇跡的に思わされてしまう。訳者あとがきでは当時の背景や他作品を学ぶことが文学史である、と釘を刺してますが…
終盤、「ベストセラー」と「文学賞」がそれぞれ1章を割いて取り上げられているのは、昔に読んだ文学史の本にはない視点だったから興味深かった。
ブルームズベリー・グループとモダニズムの章も、ケインズの本を読んだ直後なので興味深く読めた。G.E.ムーアはマジで重要な人物だったんだね。
一方で、すべての作家を扱うことはできないとはいえメアリー・シェリーと『フランケンシュタイン』が出てこないのってどうよと思う。あとサマセット・モーム。ただまあここら辺は、伝統的な英文学史では傍流扱いされているんだろうね。学部生時代に読んだ英文学史の本ではモームは「通俗的」「底が浅い」とまで評価されていたし…。
帝国主義や人種の問題を扱ってはいるけど、追及は甘め。ここら辺はアメリカ文学史と英文学史とでも違ってくるのかな。
また文学史って小説と同じくらい詩が紹介される訳だけど、学部生の頃から詩って小説に比べて興味持てないわね。文学専攻の学生の大半がそうだと思うけが…
ただし、27章「不運な国歌:戦争詩人」は、紹介される詩人4人中3人が戦死する悲痛さと合わさり、その詩の内容にも興味が持てて印象に残った。
悲痛と言えばブロンテ姉妹もみんな若死にするし、生前から『ジェイン・エア』が評価されたシャーロットはともかくエミリーとアンは出版社もかわいそうね。
オースティンとブロンテ姉妹はどちらも「牧師の娘」なのね
学部生時代に英文学史の本はいくつか読んだが、当時に本書があればよかった、と思わされる。
…が、文学史の本にありがちな、後半になるにつれて扱う作家や作品の数が拡大し過ぎてひとつひとつの紹介が薄くなり、現代的なメディア環境の変化も取り上げはするが扱い切れなくて、どんどんどっちらけになってくる、というパターンに本書も当てはまってしまったか。
また原著が2013年であることを差し引いても著者の視野はけっこう狭く思えて時代についていけていないところもあったように感じた。
終盤で世界文学の話がほんのわずかに触れられるが、村上春樹は『1Q84』が紹介される。春樹の中でも駄作だと思うんだけど…。
『若い読者のための文学史』ジョン・サザーランド
www.subarusya.jp/book/b547918...
11日(土)に読み始め、19日(日)に読み終わり。文学史とは言っているが、ほぼほの「英文学史」。『ハムネット』を観た週に読み始めたわけです。
神話や叙事詩から始まり、アリストテレスの悲劇論が紹介されて、お目当てのシェイクスピアの章やJ・オースティン、ブロンテ姉妹のあたりまではおもしろい。単に作家を紹介するだけでなく、「プロットとは何か」とか「演劇とはどういうメディアか」といった論点が章ごとに設定されているのがとても良いです。
In the Land of Grey and Pink(and White)
きのう→金曜日
初めて喋った人も久しぶりに会った人もいっぱいいて、懇親会は楽しかった。前日に終電まで飲んでいた疲れやむくみ、髭剃り負けなどで身体と顔のコンディションがよくなかったのがいまさら悔やまれる。
懇親会後はちょっとだけ渋谷に寄ったけど、土曜夜の渋谷は活気がすごくて別世界みたいだね。
ピーター・シンガーさんと
案内文の注意書きスルーしてGoogleマップに頼った結果、駒場内の別キャンパスに連れてかれて、もともと遅刻してたのも合わさり結果1時間近く遅れた。
駒場キャンパス、犬がいっぱい居るのがよいですね。
駒場
きのうはピーター・シンガー講演会と懇親会。講演会は質疑応答の質問もつまらないし回答もシンガーの本読んでいたら予想できるものでうーむ、という感じだったけど、こういうのは懇親会がメインですね。
きのうは定時ダッシュからの下北沢ダラダラ。屋上空間がよかった。
町田
週末の飲食
東林間
英語圏の「人文書入門シリーズ」の最近の翻訳状況:
Oxford の Very Short Introdution
白水社から『税』がこのあいだ出て、『ケインズ』が近刊。すばる舎から『人権』が近刊です。岩波はいい加減に『人工知能』(「哲学がわかる」シリーズ)を出してください。
『権威主義』とか『新自由主義』も翻訳欲しいので需要ありそうだしどこか出してください。
YaleのA Little History~
LittleじゃなくてShortですが、『若い読者のための~史』シリーズで『戦争史』が進行中っぽいです。
RoutledgeのThe Basics
『現象学』が新曜社から出ました
『ヨーロッパ現代史』松尾秀哉
www.chikumashobo.co.jp/product/9784...
12日(日)に電車読書で流し読み。勉強にはなったが、あまり感想はなし。2019年の本だが、2014年のウクライナ危機について「国際法に基づく国際秩序が崩れていく」と書かれてあって、これが2022年の本格侵攻を通じて現在の状況につながっていると考えるとゾッとするね。
1980年代における新自由主義の導入とその前後で社会/世界がどう変わったかを知りたくて読んだけど、あくまで政治家(各国の首相)がメイン。生徒時代に歴史の授業を受けていた頃からそうだけど、人物ベースの歴史記述は苦手っす。
赤ちゃんの時に抱いていたような、外界に散漫かつ拡散した注意を向けて予想外のものにも思いがけず新鮮に反応するような意識を抱くためには「旅行」か「瞑想」かのどちらかをすればいい、というのは、なるほど感を抱きました。
実際の本書を読んだ直後に座ってお経を聞き続けるタイミングがあったので素人ながらに瞑想をしてみたらランタン型意識の何たるかが分かったような気もした。
ここら辺はナナイの『美学入門』で論じられていた「「しばりのない注意」や、ひいては現象学にもつながっていくだろうね。
乳幼児/発達心理学だけでなく進化心理学をベースとした議論ではありながらも「人間には周囲の環境に介入する能力がある」というポイントが一貫して強調されているので、その観点から行われる、遺伝を強調する議論に対する反論も理解と同意がしやすい。
『若い読者のための心理学史』を読んだ時にも思ったけど、遺伝強調論は心理学のテイを取ってやってくるからこそ党の心理学者による反論がもっとも効くわけですね。
トリビアとしては、イマジナリーフレンドは内向的な子どもよりも外向的な子どものほうが作りやすい、というのは一般的なイメージと相反しているので印象的でした。
著者が哲学を研究した経験もあることは、各章のテーマの選び方だけでなく、全体を通じて西洋の男性哲学に対するケア倫理的な批判精神や距離感の取り方が感じられることにも寄与していそう。
特に道徳について扱った8章で義務論・功利主義を相対化してコールバーグを批判しつつ「共感」を重視しているところは諸にそうだし、人生の意味を扱った9章でプラトンに関連して「哲学には子どもが出てこない」と指摘しているのもケア倫理的ですね(E・キティを思い出した)。
フロイトも本書を通じて批判されています。シンガーに対する批判はとばっちりだと思う一方で、『ベル・カーブ』の著者らに対する批判は十分に真っ当であると思う。
・赤ちゃん(以下、幼児含む)は外界の観察や自ら働きかける”実験”を通じて物理的な世界や人間という存在のメカニズムを学んでいく
・大人は成長するにつれて注意の対象を狭めることを学びスポットライト型の意識を持つ(そしてそれに限定されるようになる)が赤ちゃんは外界すべてに満遍なく散漫に注意を向けるランタン型の意識を持つ
・赤ちゃんもエピソード記憶を持ちはするが外から手がかりを与えられない限り自分からは思い出せない(出典健忘)、心の機能と意識体験にギャップがあり大人のように自己同一性を保った意識をしている訳ではない
・幼い子どもは「道徳」ではなく「ルール」に従う
……あたりが主なポイントかしら
『哲学する赤ちゃん』 アリソン・ゴプニック
www.akishobo.com/book/detail....
5日(日)に読み始め、7日(火)に読み終わり。
町田が誇る“日本一の”ブックオフで割引と年始セールの合わせ技で506円で購入した本書、かなり面白く、3日で一気に読みました。原著は2009年なので心理学の本としては知識・情報の古さに注意すべきかもしれないが、面白い人文科学書ってのは知識の新しさだけが取り柄ではない、というのを久しぶりに思い知らされたね。
発達心理学の知見の紹介を主としながらも、各章のテーマを「因果」「同一性」「人生の意味」などの哲学的なものとする構成が優れている。