18.『指示と存在——存在しないものに固有名はあるか』
『名指しと必然性』で提示された固有名をめぐる見取図を展開し、フィクション的な存在(ユニコーンやシャーロック・ホームズなど)にまで拡張した講義です。フィクション的な存在が存在しない(「ハムレットは存在しない」)というとき、それをどのように理解すればよいのかという問題(「存在否定言明問題」または「空虚な名前問題」)の探求が主題です。ここから派生して取り扱われる、知覚をめぐる問題や、話し手の指示と意味論的指示の区別をめぐる問題は面白いです。
www.heibonsha.co.jp/smp/book/b67...
Posts by 有智 麻耶
17.『名指しと必然性——様相の形而上学と心身問題』
ソール・アーロン・クリプキによる、固有名の意味をめぐる講義を書籍化したものです。固有名を記述の束(「アリストテレス」=古代最後の偉大な哲学者、のような)とみなすフレーゲやラッセルの見解を批判し、名前はあらゆる可能世界で同一の対象を指示する固定指示詞であると主張しています。この見取図が自然種や心身問題に拡張される第三講義の内容は、実在論や心の哲学に引き継がれています。指示の因果論については、いいたいことは理解できるものの、ほんとうにそうか? という印象です。
www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-978...
16.『国語教育における「主体」と「ことばにならない何か」』
佐藤宗大は、カントを伴走者として国語教育(学)の「主体」概念を問い直し、これまで消極的に位置づけられることのおおかった「ことばにならない何か」の積極的な価値を明らかにしようとします。「物自体」≒「ことばにならない何か」という、国語教育(学)が切り捨ててきた対象を取りあげ、それをロマンティックではない学問的な背景に基づいて考察したことが、本書の最大の意義だと思います。論理的思考力や教育産業のAI化などの現実的な問題を分析する観点を与えてくれる研究です。
www.hituzi.co.jp/hituzibooks/...
15.『新自由主義教育からの脱出——子ども・若者の発達をみんなでつくる』
コントポディスは、新自由主義の価値観に基づく主体化を新自由主義教育と呼んで批判します。周縁化の背景には、個人の選択や努力にとどまらない要因があるのに、それらを自己責任にすり替えることで、既存の社会的な構造を再生産してしまうからです。ドイツやアメリカ、ブラジルの事例を分析することで、著者は新自由主義教育の、ある種の無責任さと、オルタナティブの両方を提示します。「新自由主義」が自明のものとしてろくに説明されないのが惜しいです。
www.shin-yo-sha.co.jp/smp/book/b62...
14.『言語化する力を哲学する——「ことばにならない何か」から始まる国語教育』
カント的な分析視角から、国語教育における「ことばにならない何か」について探求する佐藤宗大の二冊目の著書です。『国語教育』の連載を書籍化したものということで、より一般的な内容になっています。「言語化する力」を能力ではなくエネルギーとしてとらえることや、「文学的な文章」/「説明的な文章」という区別のとらえ直しなど、これからのことばの教育をつくっていくための手がかりがたくさんあったと思います。
www.meijitosho.co.jp/detail/4-18-...
巻田はるかさんの個展《I'm here》を観てきました。とてもひさしぶりの、東京での個展です。和の要素を取り入れつつ、少女たちの日常の風景が描かれています。目とレースの描き方が、ほんとうに素敵です。
泥方陽菜さんの個展《MAGICAL OOPARTS》を観てきました。陶器のマジカルアイテムが30点ほど展示されています。人形作家から美術作家に転身した泥方さんの、新しい展開がとても楽しみになりました。
13.『人形作家』
日本を代表する人形作家の四谷シモンが、幼少期から現在(新書版2002年、文庫版2017年)までをふり返る自伝です。人形制作はもちろんのこと、状況劇場での女形としての活動などについても語られています。人形に人生を捧げてきたシモンのいう「夢をもちなさい」ということばには、格別の重さがあります。先日、坂出の四谷シモン人形館・淡翁荘に行ってきましたが、はたして、あのような大型の〈すごい〉人形をつくる作家は、これから現われるのでしょうか。
www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-978...
香川県坂出市の、シャッター商店街の一角にある、四谷シモン人形館・淡翁荘に行ってきました。70年万博に展示された〈ルネ・マグリットの男〉をはじめとする、シモン先生の代表作が常設されています。成人男性の人形は、どことなくシモン先生本人に似ているようで、畏れを抱かせるほどの存在感を放っていました。
12.『残穢』
作家の「私」こと小野不由美が、読者の家に現われる怪異の調査を進めていくモキュメンタリーホラーです。土地に憑いた死穢は、意図を介在させることなく感染を拡大させ、そこに住む者たちの生活を蝕んでいきます。「花は誰かの死体に咲く」ではないですが、因縁のない場所などないとすれば、怪異はすぐ足もとに潜んでいるのかもしれません。そういえば最近、部屋にいると背後から畳を擦る音がきこえてくるようになりました。
www.shinchosha.co.jp/zang-e/
ギャラリー十露で開催中のグループ展〈第20回 和の創作人形 倉敷ひいな展〉に行ってきました。美観地区の町並みに人形たちが大集合!
x.com/galleryjurou...
11.『泉鏡花 人と作品』
泉鏡花の生涯と、代表作のいくつかを解説した入門書です。幼年時代における母との死別や、師・尾崎紅葉との出会い、すずとの恋愛などのさまざまな出来事が、鏡花のロマン主義と文体をつくってきたのでしょう。旧装版の刊行が1966年であり、研究(者)の世代交代が進んでいることを考慮に入れると、内容を更新してほしいと思ってしまいます(とくに、現代のフェミニズムの観点から、鏡花がどのように読まれうるのかに関心があります)。
shimizushoin.co.jp/books/view/266
大槻香奈さんの個展《変身》を観てきました。〈世界〉という作品が光り輝いていました。光と影、線という単純な構成要素によって成立する作品ですが、よくみるとたくさんの色が複雑に重ねられています。絵画って、こんなことができるのか! ひとりではなくふたりだからこその〈世界〉なのだと思いました。
youtu.be/h3PI_YH7Ynk?...
毎年の楽しみである、クラフトアート創作人形展を観てきました。山田ミンカさんの〈慧眼の子〉が素敵でした。木精さんのフェルト作品が凄まじかったです。ものづくりに関わる方には尊敬の念しかないなあ。
10.『百年文通』
引き出しに入れたものが百年前に送られる不思議な机を通して、平成/令和と大正の少女が出会う時間SFです。伴名練さんお得意の、瞬間最大風速的に勢いよく駆け抜けてゆく作風が、いっけん使い古された設定を最後まで読ませてくれます。ガールミーツガールに重きを置いているため、(ハード)SFが苦手な方におすすめです。なお、巻末にはブックガイドがあるため、内容と相まって教育的な配慮の行き届いた、入門的な作品だと思います。令和の読者と、古典的な時間SFとを繋ぐ架け橋になるだろう一冊です!
www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0005...
スパンアートギャラリーで開催中の《wonder doll in JAPAN 2026》を観てきました。人形という表現がかき立てる〈かわいい〉や〈きれい〉にとどまらないさまざまな情念が立ちこめる、素敵な展示でした。土井典さんの作品が二体あり、その強烈さにいてもたってもいられず、積読状態の評伝『愛玩拒否の人形——土井典とその時代』を読み始めました。
9.『高野聖・眉かくしの霊』
泉鏡花の若書き「高野聖」と、晩年の作品「眉かくしの霊」の二編が収録されています。「高野聖」では、旅僧が山中の孤家で遭遇した妖艶な女をめぐる出来事について語られます。色欲と人情とが絡み合う描写が光る名作です。「眉かくしの霊」は、物語の雰囲気を一瞬で緊張させる水音が、現代の〈水ホラー〉に通ずる気がしました。鏡花の日本語は、声に出して読みたくなります。
www.iwanami.co.jp/book/b631510...
8.『哲学史入門IV——正義論、功利主義からケアの倫理まで』
正義論から功利主義へ、また徳倫理学やケアの倫理へと、現代の倫理学の主な立場について、その道の第一人者が語っています。徳倫理学については、日本でまとまって紹介する文献そのものがすくないため、とても参考になると思います。倫理学の教科書を何か読んだうえで本書を読むことで、学説を整理しつつ、批判的な見解を踏まえて理解を深めることができるでしょう(本シリーズのすべてについていえることです)。
www.nhk-book.co.jp/detail/00000...
佐藤来夢さんのドローイングをお迎えしました。ゴシック&ロリータ少女です。端正な佇まいに、自信とプライドを感じます。素敵な作品を、ありがとうございます。
7.『人形と教育』
1912年(明治45年)に帝国小学校・幼稚園を創設した教育者の西山哲治による、婦人講座のテキストです。彼の学校には、人形病院が併設され、怪我をした(壊れた)人形の治療(修理)や埋葬を行なっていました。その実践の核には、おそらく男女の別と、両性の結びつきによって成立する家族像に基づいた道徳教育があったのでしょう。社会教育協会の刊行ということで、どれほど彼の教育思想を忠実に反映しているのかということについては、検討を要すると思います。
ndlsearch.ndl.go.jp/books/R10000...
6.『雄羊——途切れない対話:二つの無限のあいだの、詩』
ジャック・デリダにとってハンス=ゲオルク・ガダマーは、その対話(の失敗)以降、生涯にわたって「内的対話」の相手だったようです。本書は、ガダマーの死をうけて行なわれた講演であり、デリダはガダマーとともに、パウル・ツェランの詩に向き合います。正直なところ、詩の読解についてはほとんど理解できていません。むしろ、デリダが生前、最後に刊行したのが本書であるというところに、哲学者の最期の身振りを感じ取りたいと思います。
www.chikumashobo.co.jp/product/9784...
5.『チャールズ・テイラーの思想』
カナダの哲学者であるチャールズ・テイラーの思想を、①道徳論、②自己論、③政治論、④認識論、⑤宗教論の観点からまとめた入門書です。原著は2000年に刊行されたものですが、テイラーを理解するうえでいまだに避けて通ることのできない一冊だと思います。本書と、中野剛充『テイラーのコミュニタリアニズム』を読めば、テイラーについてそれなりに語ることができるようになるでしょう。なお、2023年に第二版が刊行されており、そちらは構成がだいぶ異なるようです。
www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978...
4.『身から出た闇』
角川ホラー文庫編集部から依頼を受けて短編小説を書き進めていたら、編集者が消え始めて・・・・・・という構成のホラー小説です。短編と編集者との打ち合わせを交互にくり返す構成で、現実と虚構の境界を曖昧にしていきます。自分は、ホラーが怖い理由を解説されているような結末に興醒めしてしまい、いまいち読後感がよくありませんでした。
www.kadokawa.co.jp/product/3224...
3.『地球惑星システム科学入門』
流体地球(大気・海洋)と固体地球、惑星を相互作用するひとつのシステムとしてとらえた教科書です。高等学校・地学で系統的に学習した内容が、相互の関係を強調する形で再配置されているという感じでしょうか。物理学の知識を要する箇所は、門外漢や初学者にとっては難解だが、いいたいことそのものは理解できるように書かれていると思います。「地球惑星環境共存型社会」という社会像を提示しており、人文社会科学的に面白いです。
www.utp.or.jp/book/b305915...