社会問題はそれほど扱ってはいないですね。むしろ昔ながらの名探偵という形式を現代に馴染ませるのに苦労している印象でそのへんの作者の試行錯誤ぶりを楽しんで頂ければと思います。
Posts by 麻里邑圭人
そして最後の書き下ろし中編「平行線は交わらない」は収録作の中で一番長い割にいまいちキレが鈍いのが難で、やりたかったことは分かるが個人的には途中で語られる偽の真相の方がまだ面白かったように思う。とまれ全編良い意味で作者の試行錯誤ぶりが窺える作品集と言えるだろう。
ベストは犯人当てとして書かれた「心理的瑕疵あり」で現場から盗まれたあるものに纏わるシンプルなロジックから導き出される意外な真相が○。その他三編についてはあとがきでも触れられているようにある要素を使いすぎているきらいがあるがその中では「被疑者死亡により」が一番出来がいいように思う。
「被疑者死亡により」もまた犯人当てとして書かれた一編で複雑な人間関係が齎す皮肉な構図が巧く意外な犯人と結び付いていて○。一方「次はあんたの番だよ」は「都市伝説パズル」を思わせるホラー要素が目を惹く一編で作者が言うように確かに強引さはあれど一応オチとしては形になっている。
法月綸太郎「法月綸太郎の不覚」読了。曰く付き物件に住んでいた男の首吊り死体を巡る「心理的瑕疵あり」、被疑者死亡により難航する交換殺人の相手探し「被疑者死亡により」、ジョギング中に遭遇した女の幽霊と資産家殺しの意外な繋がり「次はあんたの番だよ」、そして書き下ろし中編含む四編収録。
シリーズ前作「法月綸太郎の消息」から七年ぶりになる名探偵・法月綸太郎物の短編集。子供部屋おじさん、パパ活、闇バイト、推し活、陰謀論、配信動画等々、令和の時代になり作中にそれらしい単語が目立つようになったが、やっていることはいつも通りなので、その辺は安心(?)してほしい。
【本日の回収物】
だが男にはアリバイがあるのが発覚、そこから小説の元ネタである過去に起きた選挙絡みの死亡事故がクローズアップされるや否や一気に社会派の雰囲気が濃厚になっていく。そしてそのまま権力者に立ち向かう社会派ミステリとして終わるのかと思いきや終盤に至りなぜか(?)突然本格ミステリに変貌。
単純ながらも盲点を突いたトリックと異常な動機が明かされ唖然としているうちに幕となる次第である。そういう意味では社会派の皮を被った本格ミステリということになるのかもしれないが一方でその狙いが成功しているとは言い難い構成の歪さが気になる。とはいえこの変さは読んでみてもいい作品である。
飛鳥高「死刑台へどうぞ」読了。中華料理店の跡地で発見された女の死体にはどこかで殺されて運ばれてきた形跡があった。やがて女の身元と殺害現場が特定されて一人の男が疑われるが彼にはアリバイがあった。更に女が生前書いていた実在の事件を元にした小説が事件に影響を及ぼし始めて……。
空き地に遺棄された女の他殺体を巡り二転三転する長編ミステリ……なのだけど、その実態はかなり変な作品で、序盤はどう見ても犯人としか思えない怪しすぎる男が付き合っていた女を殺害、女が書いていた小説を自分のものにして出版社の人間に売り込もうとする折原一作品を彷彿させる物語が展開する。
【本日の回収物】
【本日のお届けもの】
「悪夢の系譜 4Kデジタル修復版」観了。疎遠だった亡き母が遺した、養老院になっている屋敷を相続したヒロインを死の連鎖と不可解な現象が襲う話。いかにも幽霊屋敷物っぽい展開からの真相に意外性がある一方で、最後に起きるまさかの出来事とマイケル・ベイばりの○○シーンは爆笑の一言に尽きる。
にも拘らず要所要所の恐怖演出や音楽は秀逸だし(特に終盤のヒロインが螺旋階段を駆け下りるシーンが最高)タイトルや養老院という設定も事件の構図を知った後だとイヤな説得力がある、ツボを押さえた良質なホラーとシュールな笑いを両立させた愛すべき怪作である。
一方「ルベン・ロホは、なぜ死んだのか?」は南極を舞台にした連続殺人物でタイトルにもなっている被害者の一人もとい死者の視点による語りも交えているのが面白い。そしてそれが後に犯人を絞り込むロジックとなるある可能性を否定する手掛かりになっていると同時にオチとしても活かされているのが○。
加藤元浩「Q.E.D.UNIV. ―証明終了―」3巻読了。他界した数学界の天才教授の謎めいた遺言状に隠された真意「僕は君が決めたことを全て受け入れる」、世界各国の富豪七名が参加した豪華南極クルーズで殺人事件が発生し燈馬に犯人探しが依頼される「ルベン・ロホは、なぜ死んだのか?」の二編収録。
「僕は君が決めたことを全て受け入れる」は遺産相続を巡るコンゲーム物で、遺産に目が眩んだ親族たちをギャフンと言わせる因果応報的仕掛けも楽しいが、何よりもそれまでの遺産相続を巡る展開を絡めたことでより一層引き立つ、今の世界情勢を反映させたようなタイトルの意味が実に胸を打つ。
ただ動機から犯人が誰なのか察しがついてしまう点、犯人を追い詰める証拠に後付けのものが多い点は不満だが、終盤なぜ犯行に踏み切ったかを語る犯人のモノローグはなかなかに印象的。斬新なトリックこそないものの鮎川哲也が推薦するだけあって地味ながら手堅く読ませてくれる作品である。
仁科透「三人の夜」読了。会社ぐるみの贈収賄事件に加担していた会社幹部四人のうちの一人が早朝の公園に駐車されていた車のトランクから他殺体となって発見された。残された三人の幹部が容疑者として疑われるが、彼らにはそれぞれ鉄壁のアリバイがあった。偽のアリバイを主張しているのは誰なのか?
汚職が絡んだ殺人事件の捜査で浮かび上がった三人の容疑者のアリバイ崩しをメインにした長編ミステリ。本作は犯人探しとアリバイ崩しを同時に試みた作品であり警察の地道な捜査によって些細な気付きからアリバイが崩れていく過程も見所だがそのアリバイが崩れても犯人だとは限らないというのが面白い。
【本日のお届けもの】
むしろ平行して語られる二つの事件が最終的にどう繋がるのかの方が見所であり、たとえ途中で気付いてもそれはそれでアリバイ崩しの伏線として機能するようになっている点は○。とまれ前述した通りトリック自体は古びてしまっているので、そこは大目に見て読むのが吉な作品である。
山村直樹「追尾の連繋」読了。自宅とは正反対の土手で他殺体となって発見された大学教授と自宅の火事に巻き込まれて死んだ会社員。無関係と思われた二つの死を出版社の編集者と妊娠中の大きなお腹を抱えた未亡人がそれぞれ探るうち、やがて意外な繋がりと強固なアリバイトリックが浮かび上がってくる。
無関係と思われた二つの事件の繋がりとアリバイ崩しが趣向の長編ミステリ。本作で使われているトリックはどれも今となっては隔世の感が否めないものの、当時の知識に裏打ちされたそれらは見方を変えればある種の時代ミステリとして楽しめるかもしれない。
「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」300時間近くかけてようやくクリア。システム面の分かりづらさや会話の単調さ、主人公が選択肢を選ぶ時毎回途切れるBGMなど不満も多いがゼノブレシリーズ中探索の楽しさは随一で何よりロボットに乗って惑星中を飛び回れるワクワク感が良かった。
長編は得意不得意がありますからね(短編もまたしかりですが)。復刊はさすがに難しそうですが今調べたらこちらに比較的お求めやすい価格で売ってましたよ。
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「猛襲」観了。海辺の町が台風の影響で水没し逃げ遅れた人々を人食いザメが襲うパニックホラー物。まず自然災害によって徐々に状況が悪化していくスリルとサメから生き残るために知恵を絞るサバイバルが同時に堪能できるのが◯でそれらを83分というコンパクトな時間にテンポ良く纏めている点が好印象。
ただその反面ホラー映画らしい陰湿さはほとんどなく、見事なまでにスッキリと気持ち良く終わるところは人によって好みが分かれるかもしれないが、クズはちゃんと(?)酷い目に遭うし、何より手っ取り早く楽しめるサメ映画としてお勧めしやすい快作である。
尤もダイイング・メッセージの意味自体は正直小粒な印象が否めないものの、メインの事件以外に隠された意外な事実や犯人を絞り込む細やかなロジック、そして何よりどうして被害者がそんなダイイング・メッセージを残したのかという理由を裏付ける伏線がそれを補っている。
その一方で個人的には偽の真相で語られる動機が先天性脊髄性筋委縮症という重度の障害を抱えた作者の境遇と重なって些か感慨深いものを覚えてしまった。ただ人によっては所々に見られる社会的常識に欠ける描写が気になるかもしれないがそこさえ目を瞑ればフーダニット物として充分楽しめる作品である。
林美土里「美土里くんの『ドライツェーン』」読了。私・林美土里の許にある日アマチュア無線のやり取りで知り合った青年からこれを推理小説にしてみないかと二冊の大学ノートが届く。そこには莫大な遺産と「13」というダイイング・メッセージを巡る芸術家一家を襲った連続殺人の顛末が綴られていた。
芸術家一家の周辺で続発する殺人事件の謎に迫る長編ミステリ。ほぼダイイング・メッセージと犯人当てに絞った内容は潔さを感じさせるが途中に予想より遥か前に死んでいた被害者の謎や偽の真相などを盛り込み、ここぞというタイミングで物語に捻りを入れている点は○。
特筆すべきは警察ではない、ただの一般人の視点だからこそのミスディレクションが効果的に盛り込まれている点であり、それによってもつれにもつれた人間パズルが終盤どんでん返しを交えながら少しずつ解きほぐされ、意外な人間関係が浮き彫りになっていく過程が実に圧巻。
それと共に最終的に明らかになる犯人の正体とその動機、そして何より最後の犯行を成立させるために取った無慈悲な行動に何とも言えないやるせなさを覚えずにはいられないだろう。本作は貸間という特殊なシチュエーションならではの人間パズルが見所の、プロット型本格の秀作である。
藤木靖子「隣りの人たち」読了。六世帯十二人が同居する一軒家で買い置きの野菜やマッチなどが次々と紛失する中、住人である山本一家の給料が盗まれる事件が発生。犯人として同じく住人である正子が疑われるが間もなく彼女は川で死体となって発見される。果たして正子は住人の誰かに殺されたのか?
他人同士が同じ家に住む貸間を扱った長編ミステリ。タイトルにある「隣りの人たち」とはその貸間で暮らす人々を指しており、いつ事件が起こってもおかしくないくらいギスギスしている彼らの人間関係が、住人の一人である会社勤めの若い女性・まち子の視点を通して丹念に描かれている。
またある誤認をさせることで意外性を出したいのは分かるが犯人視点の描写のせいで効果が今一つだし犯人の正体にしても特定の人物以外キャラがあまり立っていないため驚きに乏しいのが難。ただ一応タイトルに纏わる仕掛けに関してはバレバレながら物語の盛り上がりに一役買っているのは○。
とりあえず色々と問題点はあるものの、ミステリ部分に過度な期待をしなければそれなりに楽しめる作品である。
ルーファス・キング「緯度殺人事件」読了。十一人の船客を乗せて出航した貨客船。だが無線通信士が何者かに殺され更にニューヨーク市内で起きた殺人事件の犯人が紛れ込んでいることが発覚するや船上は極度の緊迫感に包まれる。そして犯人を追うヴァルクール警備補を嘲笑うかのように新たな殺人が……。
作者の看板探偵であるヴァルクール警部補が出航した貨客船の乗客に紛れ込んだ連続殺人犯と対決する長編ミステリ。海上の密室と化した船で次々と人が殺されていく展開は王道ではあるものの犯人の目的が早い段階で察しがついてしまうため次に誰が殺されるのかというサスペンス的興味が殆どないのが残念。
【本日のお届けもの】
【本日のお届けもの】
尤もこれはあくまで旧版を知っているからこその感想であり、復刊版を最初に読む人であれば作者の仕掛けた鬼畜かつ大胆な発想に絶句すること請け合いの、愛すべき怪作である。