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#escapegoat
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印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「紫煙を交わす」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

 煙草を挟む指。
 細い棒を、薄く開いた唇が咥える。
 ゆっくりと、胸が膨らんで。
 煙草を離した唇から、細く紫煙が伸びる。
 天に昇っていくそれを見つめる、感情の薄い似せ紫の瞳。
 長めの似せ紫の髪が、風に遊ばれて揺れる。
 美しい日本庭園と池掘りを臨む縁側で、静かに佇む洋服姿の男は、すらりとして、綺麗。
 その立ち姿は、まるで水辺で寛ぐ美しい馬のよう。
 紫水は足音を立てず、ゆっくりと男に……輝夜に近づいた。
 近づく主の存在に気付いている輝夜は、しかし一向にこちらを見ない。
 静かに紫煙を燻らせて、待っている。
 紫水は敢えて声をかけず、唇に挟まれた煙草に手を伸ばした。
 二本の指で挟んで、引き抜く。
 煙を吐き出そうと微かに動いた唇に、素早く唇を重ねて。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「紫煙を交わす」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  煙草を挟む指。  細い棒を、薄く開いた唇が咥える。  ゆっくりと、胸が膨らんで。  煙草を離した唇から、細く紫煙が伸びる。  天に昇っていくそれを見つめる、感情の薄い似せ紫の瞳。  長めの似せ紫の髪が、風に遊ばれて揺れる。  美しい日本庭園と池掘りを臨む縁側で、静かに佇む洋服姿の男は、すらりとして、綺麗。  その立ち姿は、まるで水辺で寛ぐ美しい馬のよう。  紫水は足音を立てず、ゆっくりと男に……輝夜に近づいた。  近づく主の存在に気付いている輝夜は、しかし一向にこちらを見ない。  静かに紫煙を燻らせて、待っている。  紫水は敢えて声をかけず、唇に挟まれた煙草に手を伸ばした。  二本の指で挟んで、引き抜く。  煙を吐き出そうと微かに動いた唇に、素早く唇を重ねて。

 薄く開いたそこから、煙草の煙と一緒に吐息を吸う。
 バニラのように甘い香りが肺に薄く満ちて、わずかに痺れる。
 甘くて苦い、輝夜の味。
 煙だけではもの足りないと、紫水は舌を差し込んで口内を蹂躙した。
 輝夜も吝かではないらしく、それに乗ってキスを深くする。
「……ん、……」
 褥を連想させる、濃厚な口づけ。
 肺を満たしていた紫煙も、キスの合間に溶けて消える。
 透明な糸を引いて離れた二人は、互いに笑みを浮かべながら濡れた唇を舐めた。
「積極的やな」
 愉快そうに笑う輝夜に、紫水は答えず煙草を咥える。
 間接キス。
 甘く、不思議な味のする煙草を、躊躇わず肺に入れる。
 清廉潔白で大人しそうな紫水が煙草を吸う様は、まるでイケナイことをさせているような気がして、背徳感に胸が疼く。

 薄く開いたそこから、煙草の煙と一緒に吐息を吸う。  バニラのように甘い香りが肺に薄く満ちて、わずかに痺れる。  甘くて苦い、輝夜の味。  煙だけではもの足りないと、紫水は舌を差し込んで口内を蹂躙した。  輝夜も吝かではないらしく、それに乗ってキスを深くする。 「……ん、……」  褥を連想させる、濃厚な口づけ。  肺を満たしていた紫煙も、キスの合間に溶けて消える。  透明な糸を引いて離れた二人は、互いに笑みを浮かべながら濡れた唇を舐めた。 「積極的やな」  愉快そうに笑う輝夜に、紫水は答えず煙草を咥える。  間接キス。  甘く、不思議な味のする煙草を、躊躇わず肺に入れる。  清廉潔白で大人しそうな紫水が煙草を吸う様は、まるでイケナイことをさせているような気がして、背徳感に胸が疼く。

 じっと見つめる輝夜の視線に、煽り笑うように視線を絡め、紫水は煙草を唇から離した。
 そして、笑みを刷いた唇から細く息を吐いて、愛しい獣に煙をかける。
 挑発。
 ついでのように、繋がったマナを軽く揺らしてやると、ひくん、と輝夜の体が震えた。
 その反応がかわいらしくて、紫水は無言で笑う。
 初めてでもないだろうに、敏感な事だ、と。
「……」
 面白くないのは、輝夜だ。
 自分を調伏した主とはいえ、相手は幼いころから可愛がっていた年下の男。
 そのうえ、持ち前の高いプライドをこれでもかと刺激されて、不機嫌に片眉をあげた。
 当然、このまま黙ってなどいない。
 紫水の指に挟まれたままの煙草に、顔を寄せて口を付ける。

 じっと見つめる輝夜の視線に、煽り笑うように視線を絡め、紫水は煙草を唇から離した。  そして、笑みを刷いた唇から細く息を吐いて、愛しい獣に煙をかける。  挑発。  ついでのように、繋がったマナを軽く揺らしてやると、ひくん、と輝夜の体が震えた。  その反応がかわいらしくて、紫水は無言で笑う。  初めてでもないだろうに、敏感な事だ、と。 「……」  面白くないのは、輝夜だ。  自分を調伏した主とはいえ、相手は幼いころから可愛がっていた年下の男。  そのうえ、持ち前の高いプライドをこれでもかと刺激されて、不機嫌に片眉をあげた。  当然、このまま黙ってなどいない。  紫水の指に挟まれたままの煙草に、顔を寄せて口を付ける。

 煙を深く吸って、離して。
 一拍の後、可愛くも生意気な姪孫の顔に、お返しのようにかける。
 少し驚いた主人の顔に留飲を下げて、してやったりという顔を見せた輝夜に、紫水は静かに獰猛な笑みを浮かべた。
「わるい子やなぁ」
 囁くように詰りながら、仕置きのようにマナを先ほどより強く揺らし、輝夜の熱を無理やり引きずり出す。
 快感の糸を、唐突に揺らされる衝撃。
 膝を付くことは避けたが、それでも息を詰めて動きを止めた輝夜の顎を、紫水の指が捉えて擽る。
 主を睨む似せ紫の瞳は、薄く煙って可愛いばかり。
「、…、卑怯や」
「いやか?」
「……」
 返事は、沈黙。

 煙を深く吸って、離して。  一拍の後、可愛くも生意気な姪孫の顔に、お返しのようにかける。  少し驚いた主人の顔に留飲を下げて、してやったりという顔を見せた輝夜に、紫水は静かに獰猛な笑みを浮かべた。 「わるい子やなぁ」  囁くように詰りながら、仕置きのようにマナを先ほどより強く揺らし、輝夜の熱を無理やり引きずり出す。  快感の糸を、唐突に揺らされる衝撃。  膝を付くことは避けたが、それでも息を詰めて動きを止めた輝夜の顎を、紫水の指が捉えて擽る。  主を睨む似せ紫の瞳は、薄く煙って可愛いばかり。 「、…、卑怯や」 「いやか?」 「……」  返事は、沈黙。

キスの絵はなかったけど、小話ならあったので…。
小説のタグ参加不可なら消しますのでいってくだせえ(><)

離反した輝夜様を連れ戻した後の話。
※BLです

#EscapeGoat #みんなのキスの作品見せて #文庫ページメーカー sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_b...

8 2 1 0

紫水の幼心が斬られた日。
絶望が紫水を染めた夜。

妄想をイラスト化してくれたので、妄想の中身を文章化した小話。
流血表現注意。(ラベル付けておきます)

2年前の大みそかの夜に書き上げたらしい…何してんの僕www

#EscapeGoat

2 1 1 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「懐刀の主選」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

 紫水の屋敷の庭は、水が美しい。
 池掘りを望む手入れされた庭に昇る月は、満月の手前。
 未来への希望に満ちた小望月。
 それを眺めながら、紫水と鈴彦は月見酒ならぬ月見茶を嗜んでいた。
「鈴が飾り名もちかぁ…凄いなぁ」
 ふふ、と楽しそうに語りながら、紫水は茶を口に含む。
 その顔は、自慢の従兄弟を褒め称えるように晴れ晴れと微笑んでいた。
 鈴彦の飾り名襲名が決まって、いてもたってもいられず、祝いと称して呼んだ。
 正確には、襲名内定、だが。
 本来ならば、今この時点で紫水の方が下の地位になり、屋敷に呼びつけられるような身分ではなくなっている。
 しかし、鈴彦にはまだ屋敷がない故に、紫水所有の屋敷で、二人きりの祝いをしようと誘った。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「懐刀の主選」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  紫水の屋敷の庭は、水が美しい。  池掘りを望む手入れされた庭に昇る月は、満月の手前。  未来への希望に満ちた小望月。  それを眺めながら、紫水と鈴彦は月見酒ならぬ月見茶を嗜んでいた。 「鈴が飾り名もちかぁ…凄いなぁ」  ふふ、と楽しそうに語りながら、紫水は茶を口に含む。  その顔は、自慢の従兄弟を褒め称えるように晴れ晴れと微笑んでいた。  鈴彦の飾り名襲名が決まって、いてもたってもいられず、祝いと称して呼んだ。  正確には、襲名内定、だが。  本来ならば、今この時点で紫水の方が下の地位になり、屋敷に呼びつけられるような身分ではなくなっている。  しかし、鈴彦にはまだ屋敷がない故に、紫水所有の屋敷で、二人きりの祝いをしようと誘った。

 腕のいい料理人に豪勢な食事を作ってもらい、お茶請けも鈴彦の好物を色々取り揃えて。
 いつもと変わらないようで、少し違う夜。
 ごろりと行儀悪く従兄弟の側で寝転がり、眠そうな眼で月を眺めていた鈴彦は、菓子を摘まんで答えた。
「まぁ、表向きは何も変わらへんし、変えんように言われとる」
「うん」
 本来ならば、当主候補とはいえ飾り名も持たない術者の一人でしかない人間には、知らされない話だ。
 鈴彦は特別な剣。
 公にはされない、当主の懐刀。
 だが、鈴彦の価値を知り、それを知らしめた立役者でもある紫水は、裏事情も特別に教えられていた。
 否、知らされずとも鈴彦の価値を知っているのだ。

 腕のいい料理人に豪勢な食事を作ってもらい、お茶請けも鈴彦の好物を色々取り揃えて。  いつもと変わらないようで、少し違う夜。  ごろりと行儀悪く従兄弟の側で寝転がり、眠そうな眼で月を眺めていた鈴彦は、菓子を摘まんで答えた。 「まぁ、表向きは何も変わらへんし、変えんように言われとる」 「うん」  本来ならば、当主候補とはいえ飾り名も持たない術者の一人でしかない人間には、知らされない話だ。  鈴彦は特別な剣。  公にはされない、当主の懐刀。  だが、鈴彦の価値を知り、それを知らしめた立役者でもある紫水は、裏事情も特別に教えられていた。  否、知らされずとも鈴彦の価値を知っているのだ。

 釘を刺す意味で、知らされたのだろう。
 それは本人も理解していた。
 そして、公にされないという事は、今まで通りのままでいいという事も。
「変わらへんなら、今まで通りうちにも来るんやろ?」
 こうして家の縁側でゴロゴロして、のんびりして…泊って行ったりして。
 暫くは紫水の方が下の地位にはなるが、きっとこの関係は変わらない。
 それが、嬉しい。
「私も、頑張らんとなぁ」
 月を見上げて、紫水は穏やかに、だがワクワクとした気持ちで呟く。
 彼とて、このまま子供のままでいる気はない。
 きっと、すぐに従兄弟に追いつく。
 当主である祖父の名に恥じぬよう、厳しい修行に日々励んでいるのは当然の事。
 当主候補として一,二を争う場所に名を連ねているし、同年代から見て

 釘を刺す意味で、知らされたのだろう。  それは本人も理解していた。  そして、公にされないという事は、今まで通りのままでいいという事も。 「変わらへんなら、今まで通りうちにも来るんやろ?」  こうして家の縁側でゴロゴロして、のんびりして…泊って行ったりして。  暫くは紫水の方が下の地位にはなるが、きっとこの関係は変わらない。  それが、嬉しい。 「私も、頑張らんとなぁ」  月を見上げて、紫水は穏やかに、だがワクワクとした気持ちで呟く。  彼とて、このまま子供のままでいる気はない。  きっと、すぐに従兄弟に追いつく。  当主である祖父の名に恥じぬよう、厳しい修行に日々励んでいるのは当然の事。  当主候補として一,二を争う場所に名を連ねているし、同年代から見て

も飛びぬけて強く、まだ幼くとも実戦に参加しつつある。
 余程の失態を犯さない限り、飾り名を貰えるのも時間の問題だろう。
「鈴の事、ちゃんと使えるようにもっと強うなるわ」
 無邪気な笑顔でそう語る紫水に、鈴彦は眠そうな目を細めた。
「……分かってへんな」
 ぼそり、と呟き、ゆっくりと体を起こす。
 いつもと違う動きに、鈴彦が真面目な話をしたいのだろうと察し、紫水は少し身を正す思いで耳を傾ける。
 こういう時の従兄弟の発言は、状況を一変させるほどの鋭い太刀筋をもつことを、経験で知っているから。
 それこそが、鈴彦の価値の一つ。
 月明かりに照らされた、柔らかな美しさを持つ顔。
 いつもの様に、少し眠そうな顔なのに、表情を落とすだけで鋭利な刃を思わせる雰囲気を持つ。

も飛びぬけて強く、まだ幼くとも実戦に参加しつつある。  余程の失態を犯さない限り、飾り名を貰えるのも時間の問題だろう。 「鈴の事、ちゃんと使えるようにもっと強うなるわ」  無邪気な笑顔でそう語る紫水に、鈴彦は眠そうな目を細めた。 「……分かってへんな」  ぼそり、と呟き、ゆっくりと体を起こす。  いつもと違う動きに、鈴彦が真面目な話をしたいのだろうと察し、紫水は少し身を正す思いで耳を傾ける。  こういう時の従兄弟の発言は、状況を一変させるほどの鋭い太刀筋をもつことを、経験で知っているから。  それこそが、鈴彦の価値の一つ。  月明かりに照らされた、柔らかな美しさを持つ顔。  いつもの様に、少し眠そうな顔なのに、表情を落とすだけで鋭利な刃を思わせる雰囲気を持つ。

紫水にとって、人生最大の分岐点。
当主という地位に目を向け始めた日のお話。

鈴彦は紫水の従兄弟で、戦闘力は低いけれど頭がとても切れる子。
いつも眠そうにしているけれど、やる時はやる策士。

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5 1 1 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「大好きな色は、甘い色」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

「よっと」
 掛け声とともに、一気に視界が変わる。
 地面が遠くなり、雲が近くなる。
 低木の向こう側の庭まで見えるようになり、世界が広くなったような気さえする。
「たかーい!」
「こら。暴れたら危ないやろ」
 キャッキャとはしゃぐ紫水を抱えなおし、輝夜は庭に足を踏み出した。
 ゆっくり、ゆっくり歩く。
 その間も、紫水は楽しそうに、きょろきょろとあたりを見回しているのが輝夜には感じられた。
「好きやなぁ、肩車」
 この時ばかりは、普段大人しく、大人びた空気を纏う紫水が、年相応の……片手の指を超えた程度の子供になる。
 だが、紫水にはこだわりがあったらしい。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「大好きな色は、甘い色」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 「よっと」  掛け声とともに、一気に視界が変わる。  地面が遠くなり、雲が近くなる。  低木の向こう側の庭まで見えるようになり、世界が広くなったような気さえする。 「たかーい!」 「こら。暴れたら危ないやろ」  キャッキャとはしゃぐ紫水を抱えなおし、輝夜は庭に足を踏み出した。  ゆっくり、ゆっくり歩く。  その間も、紫水は楽しそうに、きょろきょろとあたりを見回しているのが輝夜には感じられた。 「好きやなぁ、肩車」  この時ばかりは、普段大人しく、大人びた空気を纏う紫水が、年相応の……片手の指を超えた程度の子供になる。  だが、紫水にはこだわりがあったらしい。

「ちゃう! 輝夜に肩車してもらうんが、好きなんや」
 そう楽しそうに言うと、頭にギューっとしがみ付いて訴える。
 いつもは見上げないと見えない似せ紫の髪が眼下に来て、顔を上げずとも……目を合わせる心配をせずとも、大好きな色を堪能できるのが嬉しいのだ。
 ただ、それを伝えるには、紫水は幼く、興奮しすぎていて。
 勿論、そんなことは輝夜には、伝わらない。
「そら、光栄やなぁ」
 と、ただ、自分が選ばれたという事に笑うだけだ。
 庭を歩き、とある木の下に差し掛かる。
 イチジク。
 食事のデザートでも見たことのある実だ。
 とても甘くて甘くておいしかったのを思い出した紫水は、手を伸ばしてその実を一つ、ちぎった。
 若草のような緑色の、小さな綺麗な実。
 それを半分に割り、小さな手が下に降りてくる。

「ちゃう! 輝夜に肩車してもらうんが、好きなんや」  そう楽しそうに言うと、頭にギューっとしがみ付いて訴える。  いつもは見上げないと見えない似せ紫の髪が眼下に来て、顔を上げずとも……目を合わせる心配をせずとも、大好きな色を堪能できるのが嬉しいのだ。  ただ、それを伝えるには、紫水は幼く、興奮しすぎていて。  勿論、そんなことは輝夜には、伝わらない。 「そら、光栄やなぁ」  と、ただ、自分が選ばれたという事に笑うだけだ。  庭を歩き、とある木の下に差し掛かる。  イチジク。  食事のデザートでも見たことのある実だ。  とても甘くて甘くておいしかったのを思い出した紫水は、手を伸ばしてその実を一つ、ちぎった。  若草のような緑色の、小さな綺麗な実。  それを半分に割り、小さな手が下に降りてくる。

「はい、輝夜」
 差し出されるままに口を開けた輝夜は、口に入れた瞬間顔を顰めた。
「うまい?」
「……すっぱい」
「ええ?」
 うそだぁ、と自分も口に入れた紫水は、その味に目を潤ませる。
 記憶にあるものとは、あまりに違いすぎる。
「……ほんまや、すっぱい……」
 肩車してくれた輝夜に、お礼がしたかったのに。
 味よりもその結果が悔しく、口を噤んだ紫水を軽く揺らして、輝夜は笑った。
「まだ熟してへんの、選ぶからや。
 まだ緑色やったやろ。赤いのにせな」
 そう言いながら、彼は片手で紫水を支え、もう一方の手を器用に伸ばす。
 もいだのは、少し大きな赤褐色の実。
 紫水の大好きな色によく似た実。

「はい、輝夜」  差し出されるままに口を開けた輝夜は、口に入れた瞬間顔を顰めた。 「うまい?」 「……すっぱい」 「ええ?」  うそだぁ、と自分も口に入れた紫水は、その味に目を潤ませる。  記憶にあるものとは、あまりに違いすぎる。 「……ほんまや、すっぱい……」  肩車してくれた輝夜に、お礼がしたかったのに。  味よりもその結果が悔しく、口を噤んだ紫水を軽く揺らして、輝夜は笑った。 「まだ熟してへんの、選ぶからや。  まだ緑色やったやろ。赤いのにせな」  そう言いながら、彼は片手で紫水を支え、もう一方の手を器用に伸ばす。  もいだのは、少し大きな赤褐色の実。  紫水の大好きな色によく似た実。

「ほら、これ食ってみ」
 渡された実を半分にちぎり、口に入れた紫水は、その甘さにたちまち破顔する。
「あまぁい」
「せやろ?」
 どやぁとした声に、紫水は再び小さな手を下におろした。
 赤く熟れた実を、大好きな大叔父上の口元に。
「はい、輝夜も」
 差し出されるままに、白い歯が赤い実に齧り付く。
 一口、二口。
 最後におまけと言わんばかりに、ぺろり、と手の平を舐められて、くすぐったさに紫水は身を捩る。
 そして、楽しそうに声を上げて笑った。
「聖十朗大叔父上みたいな色やなくて、輝夜みたいな色を選べばええんやな」
 キラキラと、大発見を口にして。
 確かに、その通りではあるのだが。

「ほら、これ食ってみ」  渡された実を半分にちぎり、口に入れた紫水は、その甘さにたちまち破顔する。 「あまぁい」 「せやろ?」  どやぁとした声に、紫水は再び小さな手を下におろした。  赤く熟れた実を、大好きな大叔父上の口元に。 「はい、輝夜も」  差し出されるままに、白い歯が赤い実に齧り付く。  一口、二口。  最後におまけと言わんばかりに、ぺろり、と手の平を舐められて、くすぐったさに紫水は身を捩る。  そして、楽しそうに声を上げて笑った。 「聖十朗大叔父上みたいな色やなくて、輝夜みたいな色を選べばええんやな」  キラキラと、大発見を口にして。  確かに、その通りではあるのだが。

昨日のやつ、ページ足りてなかったので上げ直しw

紫水と輝夜。
いちじくの想い出。
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4 1 1 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「大好きな色は、甘い色」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

「よっと」
 掛け声とともに、一気に視界が変わる。
 地面が遠くなり、雲が近くなる。
 低木の向こう側の庭まで見えるようになり、世界が広くなったような気さえする。
「たかーい!」
「こら。暴れたら危ないやろ」
 キャッキャとはしゃぐ紫水を抱えなおし、輝夜は庭に足を踏み出した。
 ゆっくり、ゆっくり歩く。
 その間も、紫水は楽しそうに、きょろきょろとあたりを見回しているのが輝夜には感じられた。
「好きやなぁ、肩車」
 この時ばかりは、普段大人しく、大人びた空気を纏う紫水が、年相応の……片手の指を超えた程度の子供になる。
 だが、紫水にはこだわりがあったらしい。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「大好きな色は、甘い色」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 「よっと」  掛け声とともに、一気に視界が変わる。  地面が遠くなり、雲が近くなる。  低木の向こう側の庭まで見えるようになり、世界が広くなったような気さえする。 「たかーい!」 「こら。暴れたら危ないやろ」  キャッキャとはしゃぐ紫水を抱えなおし、輝夜は庭に足を踏み出した。  ゆっくり、ゆっくり歩く。  その間も、紫水は楽しそうに、きょろきょろとあたりを見回しているのが輝夜には感じられた。 「好きやなぁ、肩車」  この時ばかりは、普段大人しく、大人びた空気を纏う紫水が、年相応の……片手の指を超えた程度の子供になる。  だが、紫水にはこだわりがあったらしい。

「ちゃう! 輝夜に肩車してもらうんが、好きなんや」
 そう楽しそうに言うと、頭にギューっとしがみ付いて訴える。
 いつもは見上げないと見えない似せ紫の髪が眼下に来て、顔を上げずとも……目を合わせる心配をせずとも、大好きな色を堪能できるのが嬉しいのだ。
 ただ、それを伝えるには、紫水は幼く、興奮しすぎていて。
 勿論、そんなことは輝夜には、伝わらない。
「そら、光栄やなぁ」
 と、ただ、自分が選ばれたという事に笑うだけだ。
 庭を歩き、とある木の下に差し掛かる。
 イチジク。
 食事のデザートでも見たことのある実だ。
 とても甘くて甘くておいしかったのを思い出した紫水は、手を伸ばしてその実を一つ、ちぎった。
 若草のような緑色の、小さな綺麗な実。
 それを半分に割り、小さな手が下に降りてくる。

「ちゃう! 輝夜に肩車してもらうんが、好きなんや」  そう楽しそうに言うと、頭にギューっとしがみ付いて訴える。  いつもは見上げないと見えない似せ紫の髪が眼下に来て、顔を上げずとも……目を合わせる心配をせずとも、大好きな色を堪能できるのが嬉しいのだ。  ただ、それを伝えるには、紫水は幼く、興奮しすぎていて。  勿論、そんなことは輝夜には、伝わらない。 「そら、光栄やなぁ」  と、ただ、自分が選ばれたという事に笑うだけだ。  庭を歩き、とある木の下に差し掛かる。  イチジク。  食事のデザートでも見たことのある実だ。  とても甘くて甘くておいしかったのを思い出した紫水は、手を伸ばしてその実を一つ、ちぎった。  若草のような緑色の、小さな綺麗な実。  それを半分に割り、小さな手が下に降りてくる。

「はい、輝夜」
 差し出されるままに口を開けた輝夜は、口に入れた瞬間顔を顰めた。
「うまい?」
「……すっぱい」
「ええ?」
 うそだぁ、と自分も口に入れた紫水は、その味に目を潤ませる。
 記憶にあるものとは、あまりに違いすぎる。
「……ほんまや、すっぱい……」
 肩車してくれた輝夜に、お礼がしたかったのに。
 味よりもその結果が悔しく、口を噤んだ紫水を軽く揺らして、輝夜は笑った。
「まだ熟してへんの、選ぶからや。
 まだ緑色やったやろ。赤いのにせな」
 そう言いながら、彼は片手で紫水を支え、もう一方の手を器用に伸ばす。
 もいだのは、少し大きな赤褐色の実。
 紫水の大好きな色によく似た実。

「はい、輝夜」  差し出されるままに口を開けた輝夜は、口に入れた瞬間顔を顰めた。 「うまい?」 「……すっぱい」 「ええ?」  うそだぁ、と自分も口に入れた紫水は、その味に目を潤ませる。  記憶にあるものとは、あまりに違いすぎる。 「……ほんまや、すっぱい……」  肩車してくれた輝夜に、お礼がしたかったのに。  味よりもその結果が悔しく、口を噤んだ紫水を軽く揺らして、輝夜は笑った。 「まだ熟してへんの、選ぶからや。  まだ緑色やったやろ。赤いのにせな」  そう言いながら、彼は片手で紫水を支え、もう一方の手を器用に伸ばす。  もいだのは、少し大きな赤褐色の実。  紫水の大好きな色によく似た実。

「ほら、これ食ってみ」
 渡された実を半分にちぎり、口に入れた紫水は、その甘さにたちまち破顔する。
「あまぁい」
「せやろ?」
 どやぁとした声に、紫水は再び小さな手を下におろした。
 赤く熟れた実を、大好きな大叔父上の口元に。
「はい、輝夜も」
 差し出されるままに、白い歯が赤い実に齧り付く。
 一口、二口。
 最後におまけと言わんばかりに、ぺろり、と手の平を舐められて、くすぐったさに紫水は身を捩る。
 そして、楽しそうに声を上げて笑った。
「聖十朗大叔父上みたいな色やなくて、輝夜みたいな色を選べばええんやな」
 キラキラと、大発見を口にして。
 確かに、その通りではあるのだが。

「ほら、これ食ってみ」  渡された実を半分にちぎり、口に入れた紫水は、その甘さにたちまち破顔する。 「あまぁい」 「せやろ?」  どやぁとした声に、紫水は再び小さな手を下におろした。  赤く熟れた実を、大好きな大叔父上の口元に。 「はい、輝夜も」  差し出されるままに、白い歯が赤い実に齧り付く。  一口、二口。  最後におまけと言わんばかりに、ぺろり、と手の平を舐められて、くすぐったさに紫水は身を捩る。  そして、楽しそうに声を上げて笑った。 「聖十朗大叔父上みたいな色やなくて、輝夜みたいな色を選べばええんやな」  キラキラと、大発見を口にして。  確かに、その通りではあるのだが。

紫水と輝夜。
いちじくの想い出。
もうそろそろ、幸せな子供時代の小話が尽きてきたので、次は離反の話上げるかも。

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4 1 1 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「今も昔も変わらない、思い出の味。」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

 甘くて苦い、大人の味。
 今も昔も変わらない、思い出の味。
 どれだけ年を重ねても、やはりこの菓子が、この味が一番好きだ。
 混じりっ気のない、純粋なバニラの香りを楽しみながら、紫水は黒い菓子を口に運ぶ。
 すー、と襖があく音。
「良いもん食っとるな」
 予想通りの声に紫水は微笑んで、入り口を見た。
 そして、自慢げに笑う。
「ええやろ」
 とっておきの、おやつ。
 たまに食べたくなるのだ、と。
「……一個余っとる」
 皿の上のカヌレに目敏く気付いた輝夜は、ぽつり、と呟いた。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「今も昔も変わらない、思い出の味。」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  甘くて苦い、大人の味。  今も昔も変わらない、思い出の味。  どれだけ年を重ねても、やはりこの菓子が、この味が一番好きだ。  混じりっ気のない、純粋なバニラの香りを楽しみながら、紫水は黒い菓子を口に運ぶ。  すー、と襖があく音。 「良いもん食っとるな」  予想通りの声に紫水は微笑んで、入り口を見た。  そして、自慢げに笑う。 「ええやろ」  とっておきの、おやつ。  たまに食べたくなるのだ、と。 「……一個余っとる」  皿の上のカヌレに目敏く気付いた輝夜は、ぽつり、と呟いた。

 声に滲み出るのは、『ずるい』『欲しい』か。
 甘いもの好きな彼には、目の毒だろう。
「さっきおやつ食ったやろ」
 一応、釘を刺してみる。
 ほかっておくと、まんじゅう一箱をぺろりと食べてしまうような甘党だ。
 紫水がセーブしてやらないと、健康を害するのではないか、と心配になってしまう。
 それでも、顔がニヤけるのは、この後の男の行動が想像がついて……それが可愛くて仕方がないからだ。
 ゆっくりと近づく体が、屈む。
 ぱかっと口を開ける、雛のような男。
 それを見て、どうして突っぱねることができるだろう。
「さっき甘いもんくったから、半分な」
 そう言うと、紫水はカヌレを手に取る。

 声に滲み出るのは、『ずるい』『欲しい』か。  甘いもの好きな彼には、目の毒だろう。 「さっきおやつ食ったやろ」  一応、釘を刺してみる。  ほかっておくと、まんじゅう一箱をぺろりと食べてしまうような甘党だ。  紫水がセーブしてやらないと、健康を害するのではないか、と心配になってしまう。  それでも、顔がニヤけるのは、この後の男の行動が想像がついて……それが可愛くて仕方がないからだ。  ゆっくりと近づく体が、屈む。  ぱかっと口を開ける、雛のような男。  それを見て、どうして突っぱねることができるだろう。 「さっき甘いもんくったから、半分な」  そう言うと、紫水はカヌレを手に取る。

 逡巡。
 剣を出して半分に切ってもいいが、どうせなら、思い出に沿っても良いだろう。
 どうせ、この場には秘密を共有する相手しかいないのだから。
 昔を懐かしみながら、紫水はカヌレを一口齧る。
 そして、残った半分を輝夜の口に放り込んだ。
 もぐもぐと咀嚼する口。
 旨そうにペロリ、と唇を舐める姿は、艶やか。
「行儀悪いで」
 そして、似せ紫の目を楽しそうに煌めかせ、ニヤリと笑う。
 そんな悪い男に、紫水も同じように笑って返した。
「教えた人が、悪いんや」
 
(終)

 逡巡。  剣を出して半分に切ってもいいが、どうせなら、思い出に沿っても良いだろう。  どうせ、この場には秘密を共有する相手しかいないのだから。  昔を懐かしみながら、紫水はカヌレを一口齧る。  そして、残った半分を輝夜の口に放り込んだ。  もぐもぐと咀嚼する口。  旨そうにペロリ、と唇を舐める姿は、艶やか。 「行儀悪いで」  そして、似せ紫の目を楽しそうに煌めかせ、ニヤリと笑う。  そんな悪い男に、紫水も同じように笑って返した。 「教えた人が、悪いんや」   (終)

これにてカヌレ関連のお話は一区切り。
離反した輝夜様を紆余曲折を経て取り戻した後のお話。
紫水は当主になり、輝夜様は紫水と契約して側にいます。

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印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「苦い味と、甘い味と、苦い味。」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

 甘い匂いに誘われて。
 甘い味を期待して。
 がり、と皮をかじる。
 小さな、小さな黒いカヌレ。
 口に広がるのは。
「苦いなぁ……」
 苦い、苦い、大人の味。
 こんな味だっただろうか。
 幼い子供でも食べられた筈のそれは、とても子供向きの味には思えない。
 あの当時、背伸びをしていた記憶はない。
 思い出すのは、目を合わせないように、控えめにと見上げ続けた、大人の横顔。
 懐いていたあの人に貰った菓子は、確かに甘くて、幸せの味がした。
 あの人と同じ匂いをさせる、白くて柔らかい、中の部分に歯を立てる。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「苦い味と、甘い味と、苦い味。」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  甘い匂いに誘われて。  甘い味を期待して。  がり、と皮をかじる。  小さな、小さな黒いカヌレ。  口に広がるのは。 「苦いなぁ……」  苦い、苦い、大人の味。  こんな味だっただろうか。  幼い子供でも食べられた筈のそれは、とても子供向きの味には思えない。  あの当時、背伸びをしていた記憶はない。  思い出すのは、目を合わせないように、控えめにと見上げ続けた、大人の横顔。  懐いていたあの人に貰った菓子は、確かに甘くて、幸せの味がした。  あの人と同じ匂いをさせる、白くて柔らかい、中の部分に歯を立てる。

 バニラ味。
 ねっとりとした甘さが口の中に広がる。
 噛みしめるように咀嚼して、ゆっくりと嚥下する。
 口に広がる甘さが、余韻のように胃に落ちていく。
 つかの間の甘い時間は、名残惜しむ間もなく、消えてしまう。
「……甘い……いや、苦い、かなぁ」
 涙は出ない。
 感傷に心揺らされ、涙するような子供時代は終わった。
 紫水は、半分になった残りのカヌレを、口に放り込んだ。
 口に広がる、甘い匂い。
 苦い味と、甘い味と、苦い味。
 もう一つ、手に取る。
 一回で、口に納まってしまうほどの小さなカヌレ。
 それでも、紫水は半分に齧る。

 バニラ味。  ねっとりとした甘さが口の中に広がる。  噛みしめるように咀嚼して、ゆっくりと嚥下する。  口に広がる甘さが、余韻のように胃に落ちていく。  つかの間の甘い時間は、名残惜しむ間もなく、消えてしまう。 「……甘い……いや、苦い、かなぁ」  涙は出ない。  感傷に心揺らされ、涙するような子供時代は終わった。  紫水は、半分になった残りのカヌレを、口に放り込んだ。  口に広がる、甘い匂い。  苦い味と、甘い味と、苦い味。  もう一つ、手に取る。  一回で、口に納まってしまうほどの小さなカヌレ。  それでも、紫水は半分に齧る。

 
 今は隣にいない、紫夜の月の影と分け合う様に。
 
 噛みしめるように、味わう。
 苦い味と、甘い味と、苦い味。
 大人の味がするお菓子。
 
 そうやって味わいながら。
 紫水は、行き場のない残った菓子の半身を、紫の瞳を瞼の裏に隠して、何度も口に放り込む。
 
(終)

   今は隣にいない、紫夜の月の影と分け合う様に。    噛みしめるように、味わう。  苦い味と、甘い味と、苦い味。  大人の味がするお菓子。    そうやって味わいながら。  紫水は、行き場のない残った菓子の半身を、紫の瞳を瞼の裏に隠して、何度も口に放り込む。   (終)

離反中の輝夜様を想う紫水。
色々あって、紫水を置いて八剣から逃げてしまったので……。
八剣から存在を抹消されている頃のお話。

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これは、ちょっと痛い小話。G的な意味でラベル付け。
子紫水が痛い目に遭ってます。

八剣さんち、毒耐性は勿論、命ある限り戦うための修行もするので、子供の頃から結構えぐい修行もしてます。

#EscapeGoat

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付記に「君の色のカヌレ」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

 赤、茶色、緑、紫、白。
 色とりどりの、小さなカヌレ。
 一つ一つ味の違うそれは、輝夜がメディアで見つけて取り寄せたものだ。
 それを、おやつ代わりに食べていたのだが。
 一箱食べつくし、二箱目に突入した時、やはり小さな乱入者がやってきた。
「なんや、いつもと違うのある!」
「……やっぱ来たか……」
 紫の目を輝かせ、縁側に立つ子供の視線は、廊下に置かれた箱の中身に釘付けで。
 今更隠すことも出来まい。
 輝夜は諦めながら、使用人に紫水の分のお茶を運ばせる。
 それを聞いていた紫水は、自分を受け入れられたと確信し、近寄ってきた。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「君の色のカヌレ」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  赤、茶色、緑、紫、白。  色とりどりの、小さなカヌレ。  一つ一つ味の違うそれは、輝夜がメディアで見つけて取り寄せたものだ。  それを、おやつ代わりに食べていたのだが。  一箱食べつくし、二箱目に突入した時、やはり小さな乱入者がやってきた。 「なんや、いつもと違うのある!」 「……やっぱ来たか……」  紫の目を輝かせ、縁側に立つ子供の視線は、廊下に置かれた箱の中身に釘付けで。  今更隠すことも出来まい。  輝夜は諦めながら、使用人に紫水の分のお茶を運ばせる。  それを聞いていた紫水は、自分を受け入れられたと確信し、近寄ってきた。

 この子供には、宝石にでも見えているのだろうか。
 そう疑いたくなるほどのキラキラとした眼差しで、カヌレを見ている。
「いろんな味があるんやな」
「小さいから、一口で食えるやろ。
 好きなやつ食えばええ」
「ええの?」
 頷いてやると、大喜びした紫水は迷わず一つを手に取った。
 赤茶色。
「これ、輝夜の色や」
 嬉しそうに、笑う。
 確かに、似せ紫色の髪や瞳の色が、似てはいる。
 その小さなカヌレは、ためらいない勢いで、小さな口に吸い込まれていった。
「……苺や! 苦いのと甘いのとちょっと酸っぱくておいしい」

 この子供には、宝石にでも見えているのだろうか。  そう疑いたくなるほどのキラキラとした眼差しで、カヌレを見ている。 「いろんな味があるんやな」 「小さいから、一口で食えるやろ。  好きなやつ食えばええ」 「ええの?」  頷いてやると、大喜びした紫水は迷わず一つを手に取った。  赤茶色。 「これ、輝夜の色や」  嬉しそうに、笑う。  確かに、似せ紫色の髪や瞳の色が、似てはいる。  その小さなカヌレは、ためらいない勢いで、小さな口に吸い込まれていった。 「……苺や! 苦いのと甘いのとちょっと酸っぱくておいしい」

 もぐもぐとリスのように頬張りながら、笑う。
 小さなカヌレ。
 あっという間に、口から溶けてなくなってしまう。
 行儀良くお茶を一口飲んだ幼い紫水の視線は、ソワソワと箱と輝夜の顔を行き来しだした。
 その意味をきちんと読み取った輝夜は、笑いながら、箱を押す。
「もう一個、やろ?」
 ぱあっと、輝く顔。
 最初から決めていたのだろう。
 手が伸びる。
 小さな指がつまんだのは。
「それ、普通のやん。ええの?」
 所謂、プレーン。
 何の変哲もないそれを、紫水は大事そうに、嬉しそうに見つめて言った。

 もぐもぐとリスのように頬張りながら、笑う。  小さなカヌレ。  あっという間に、口から溶けてなくなってしまう。  行儀良くお茶を一口飲んだ幼い紫水の視線は、ソワソワと箱と輝夜の顔を行き来しだした。  その意味をきちんと読み取った輝夜は、笑いながら、箱を押す。 「もう一個、やろ?」  ぱあっと、輝く顔。  最初から決めていたのだろう。  手が伸びる。  小さな指がつまんだのは。 「それ、普通のやん。ええの?」  所謂、プレーン。  何の変哲もないそれを、紫水は大事そうに、嬉しそうに見つめて言った。

「これが一番、輝夜の匂いするもん」
「ボクの匂い、なぁ」
 どうやら紫水は、バニラビーンズの匂いを、輝夜のタバコの匂いだと思っているらしい。
 確かに、甘い香りのするタバコを吸ってはいるが。
 何とも不思議な選び方をするものだ。
 そう苦笑しながら、味わう子供を見つめていると、ちら、っと視線が輝夜を向いた。
「輝夜も、一緒にたべよ」
「せやなぁ……」
 そう言われ、輝夜も箱の中を見る。
 すでに同じものを一箱食べた後だ。
 甘いものはいくらでも入る腹だが、味はどれも知っていて、目新しさはない。

「これが一番、輝夜の匂いするもん」 「ボクの匂い、なぁ」  どうやら紫水は、バニラビーンズの匂いを、輝夜のタバコの匂いだと思っているらしい。  確かに、甘い香りのするタバコを吸ってはいるが。  何とも不思議な選び方をするものだ。  そう苦笑しながら、味わう子供を見つめていると、ちら、っと視線が輝夜を向いた。 「輝夜も、一緒にたべよ」 「せやなぁ……」  そう言われ、輝夜も箱の中を見る。  すでに同じものを一箱食べた後だ。  甘いものはいくらでも入る腹だが、味はどれも知っていて、目新しさはない。

美味いカヌレ食べたくなるね()
輝夜様は子紫水に甘党なのを隠してます。
大人になったらバレるけど。

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付記に「甘い誘惑、悪い秘密」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

「カヌレや!」
「……なんでこれ食っとるときに、よう来るんやろうなぁ」
 甘い匂いにでも釣られるんやろか。
 目を輝かせて近づいてくる紫水に、輝夜は苦笑する。
 別に、カヌレだから来るというわけではない。
 ほぼ毎日のように来ているのだが。
 カヌレの時は、テンションが上がる……というのは、確かにあるかもしれない。
「ほら、くち」
 近づいてきた可愛い姪孫に、カヌレを差し出そうとして。
 少し、動きが止まる。
「……?」
 いつまでたっても、口に入ってこない甘い菓子に疑問符を浮かべる紫水に笑って、輝夜は差し出したカヌレをUターンさせて。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「甘い誘惑、悪い秘密」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 「カヌレや!」 「……なんでこれ食っとるときに、よう来るんやろうなぁ」  甘い匂いにでも釣られるんやろか。  目を輝かせて近づいてくる紫水に、輝夜は苦笑する。  別に、カヌレだから来るというわけではない。  ほぼ毎日のように来ているのだが。  カヌレの時は、テンションが上がる……というのは、確かにあるかもしれない。 「ほら、くち」  近づいてきた可愛い姪孫に、カヌレを差し出そうとして。  少し、動きが止まる。 「……?」  いつまでたっても、口に入ってこない甘い菓子に疑問符を浮かべる紫水に笑って、輝夜は差し出したカヌレをUターンさせて。

 がぶり、と。
「!」
 半分、食いちぎる。
 少し小さくなった菓子。
 だが、これで、この幼子には食べやすくなっただろう。
「ほれ」
 改めて、カヌレを差し出す輝夜に、紫水はためらいなく口を開けて受け入れる。
 苦くてあまい、大人の味。
 大好きな、大叔父上みたいな匂い。
「あ、しまった」
 幸せそうに、カヌレの味を堪能する紫水を見ながら、ハッと気づいた輝夜は声を上げる。
 そして、バツが悪そうに、苦笑した。

 がぶり、と。 「!」  半分、食いちぎる。  少し小さくなった菓子。  だが、これで、この幼子には食べやすくなっただろう。 「ほれ」  改めて、カヌレを差し出す輝夜に、紫水はためらいなく口を開けて受け入れる。  苦くてあまい、大人の味。  大好きな、大叔父上みたいな匂い。 「あ、しまった」  幸せそうに、カヌレの味を堪能する紫水を見ながら、ハッと気づいた輝夜は声を上げる。  そして、バツが悪そうに、苦笑した。

「行儀悪いて怒るから、誰にも内緒な」
 大好きな大叔父上との、悪い秘密。
 カヌレのようにほんのり苦く、カヌレ以上に甘い誘惑に。
 紫水は、口をもぐもぐさせながら、こくこくと頷くのだった。
 
(終)

「行儀悪いて怒るから、誰にも内緒な」  大好きな大叔父上との、悪い秘密。  カヌレのようにほんのり苦く、カヌレ以上に甘い誘惑に。  紫水は、口をもぐもぐさせながら、こくこくと頷くのだった。   (終)

無意識に無垢な少年の性癖をぶち壊していく輝夜様。
近所のエロいお兄さん位置。
もしくは未亡人()

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付記に「あまい邂逅」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

 庭が見える居間。
 輝夜が、三時のおやつに舌鼓を打っていると、聞きなれた小童の声が飛んできた。
「それ、大陸の菓子なん?」
 小豆のように真っ黒な、円柱形にも似た形の何か。
 上から見ると、花型にも見える。
 明らかに小豆菓子ではない、小さなチョコレートケーキのようにも見えるそれに、紫水は興味津々で顔を寄せた。
「ええ匂いやわぁ」
 バニラの甘い匂い。
 見た目は、焦げたように真っ黒なのに。
 それを、大好きな大叔父上は……輝夜は、美味そうに食べている。
「カヌレいうんや」
「かぬれ」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「あまい邂逅」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  庭が見える居間。  輝夜が、三時のおやつに舌鼓を打っていると、聞きなれた小童の声が飛んできた。 「それ、大陸の菓子なん?」  小豆のように真っ黒な、円柱形にも似た形の何か。  上から見ると、花型にも見える。  明らかに小豆菓子ではない、小さなチョコレートケーキのようにも見えるそれに、紫水は興味津々で顔を寄せた。 「ええ匂いやわぁ」  バニラの甘い匂い。  見た目は、焦げたように真っ黒なのに。  それを、大好きな大叔父上は……輝夜は、美味そうに食べている。 「カヌレいうんや」 「かぬれ」

 欲しい、とは言わない。
 さっきおやつは食べたばかりだし、この真っ黒な見た目は少し警戒してしまう。
 それでも、興味はあるようで、じーっと見つめる子供の顔と、カヌレを交互に見やる事数回。
「口、あけぇ」
 突然輝夜が告げた言葉に、紫水は素直に口をカパッと開ける。
 小さくて、真っ赤な口。
 そこに、輝夜は真っ黒で小さいカヌレを放り込む。
 ちょっと苦い、カリッとした表面の中にある、甘い甘いねっとりとした生地。
 その濃厚でふわふわするような甘い匂いは。
「輝夜の匂いする」
 目の前の男の匂いとよく似ている。

 欲しい、とは言わない。  さっきおやつは食べたばかりだし、この真っ黒な見た目は少し警戒してしまう。  それでも、興味はあるようで、じーっと見つめる子供の顔と、カヌレを交互に見やる事数回。 「口、あけぇ」  突然輝夜が告げた言葉に、紫水は素直に口をカパッと開ける。  小さくて、真っ赤な口。  そこに、輝夜は真っ黒で小さいカヌレを放り込む。  ちょっと苦い、カリッとした表面の中にある、甘い甘いねっとりとした生地。  その濃厚でふわふわするような甘い匂いは。 「輝夜の匂いする」  目の前の男の匂いとよく似ている。

 正確には、彼が良く吸っているタバコの匂いだが。
「なんやそれ」
 意味不明な子供の感想だと笑いながら、自分もカヌレを口に入れる大叔父を見ながら。
(輝夜も甘そうやなぁ)
 と、幼い紫水はそう、漠然と思うのだった。
 
(終)

 正確には、彼が良く吸っているタバコの匂いだが。 「なんやそれ」  意味不明な子供の感想だと笑いながら、自分もカヌレを口に入れる大叔父を見ながら。 (輝夜も甘そうやなぁ)  と、幼い紫水はそう、漠然と思うのだった。   (終)

今日は輝夜と紫水。
カヌレの話をいくつか投げようかと思います。
このカプと言えば、カヌレか無花果みたいな印象ある。

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印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「賑やかな兄弟の日常」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

 幼い頃より飲み慣れた薬草茶を一口含む。
 独特の香りと、仄かな甘みが口の中に広がって、日々の忙殺に張り詰めた神経を解いてくれる。
 テーブルの上の山盛りだった饅頭はいつの間にか半分に減っていて、同席する甘味好き共の遠慮のなさに、呆れ笑う。
「一個くらい残しといてくれや」
「早いもん勝ちや、なぁ?」
「いや、俺はそんな食うとらん。殆どお前の口ん中やん」
「と言いつつ両手に持っとるそれはなんや」
「まだ饅頭はありますから。ゆっくり食べてくださいね」
「蓮華先生、お茶のお代わりもまだあるか?」
 いつもは小難しい議題ばかり口にする彼らも、今この時ばかりは子供のような軽口になる。
 柔らかな日差し差し込む、診療所の庭。
 テーブルを用意して、のんびり茶をすする彼らは、八剣の当主とそれを支える上位術者、そして彼らが先生と慕う専属医師。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「賑やかな兄弟の日常」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  幼い頃より飲み慣れた薬草茶を一口含む。  独特の香りと、仄かな甘みが口の中に広がって、日々の忙殺に張り詰めた神経を解いてくれる。  テーブルの上の山盛りだった饅頭はいつの間にか半分に減っていて、同席する甘味好き共の遠慮のなさに、呆れ笑う。 「一個くらい残しといてくれや」 「早いもん勝ちや、なぁ?」 「いや、俺はそんな食うとらん。殆どお前の口ん中やん」 「と言いつつ両手に持っとるそれはなんや」 「まだ饅頭はありますから。ゆっくり食べてくださいね」 「蓮華先生、お茶のお代わりもまだあるか?」  いつもは小難しい議題ばかり口にする彼らも、今この時ばかりは子供のような軽口になる。  柔らかな日差し差し込む、診療所の庭。  テーブルを用意して、のんびり茶をすする彼らは、八剣の当主とそれを支える上位術者、そして彼らが先生と慕う専属医師。

 八剣の全て、島国の中枢を動かせると言っても過言ではない彼らは、賑やかに午後のお茶を楽しんでいた。
 す、と何人かが手を上げた。
 発言前に挙手するような、気軽さ。
 羽虫を払うような、さりげなさ。
 髪を整えようと手を上げるような、自然さ。
 キン、と音を立てて、指に氷の刃が挟まれ、砕け散る。
 ジュっと音を立てて、氷が解けて水蒸気が上がる。
 ことんと音を立てて、氷の塊が地面に落ちる。
 そして、彼らの周囲には、結界に弾かれた無数の氷が地面に刺さっている。
 一口、当主が優雅に茶を啜り、結界を解いた。
 そして、穏やかな笑みを浮かべた顔で一言。
「ちょっとあいつら絞めてくる」
 静かに立ち上がる。
 それを皮切りに、テーブルを囲む皆が各々立ち上がった。
 それはもう、楽しそうな笑顔で。

 八剣の全て、島国の中枢を動かせると言っても過言ではない彼らは、賑やかに午後のお茶を楽しんでいた。  す、と何人かが手を上げた。  発言前に挙手するような、気軽さ。  羽虫を払うような、さりげなさ。  髪を整えようと手を上げるような、自然さ。  キン、と音を立てて、指に氷の刃が挟まれ、砕け散る。  ジュっと音を立てて、氷が解けて水蒸気が上がる。  ことんと音を立てて、氷の塊が地面に落ちる。  そして、彼らの周囲には、結界に弾かれた無数の氷が地面に刺さっている。  一口、当主が優雅に茶を啜り、結界を解いた。  そして、穏やかな笑みを浮かべた顔で一言。 「ちょっとあいつら絞めてくる」  静かに立ち上がる。  それを皮切りに、テーブルを囲む皆が各々立ち上がった。  それはもう、楽しそうな笑顔で。

「お供しますわ」
「わたしも」
「俺も俺も」
「僕も混ぜてや」
 茶の時間を邪魔された腹いせというには、余りに明るい。
 嬉々として喧嘩を買いに行くのか売りに行くのか。
 そう言いたくなる賑やかな雰囲気に、蓮華は止めることなく、しかし釘だけはしっかりと刺した。
「怪我なさらぬよう程々にお願いしますね」
 さて、怪我をするのは、彼らか、『あいつら』か。
「まぁ、先生に長い事世話にならんようにはするわ」
 そう告げた当主は、ガキ大将のような笑みを浮かべていた。
 
 ****
 
 何がきっかけだったのかはもう覚えていない。

「お供しますわ」 「わたしも」 「俺も俺も」 「僕も混ぜてや」  茶の時間を邪魔された腹いせというには、余りに明るい。  嬉々として喧嘩を買いに行くのか売りに行くのか。  そう言いたくなる賑やかな雰囲気に、蓮華は止めることなく、しかし釘だけはしっかりと刺した。 「怪我なさらぬよう程々にお願いしますね」  さて、怪我をするのは、彼らか、『あいつら』か。 「まぁ、先生に長い事世話にならんようにはするわ」  そう告げた当主は、ガキ大将のような笑みを浮かべていた。    ****    何がきっかけだったのかはもう覚えていない。

 だいたい、いつものやり取り。
 些細な言い争いから始まり、子供らしく術勝負で決着をつけようとした。
 本気ではないし、どちらが先に術を出したのかも覚えていない。
 いつもの水の刃が紫瑞から飛んできて、結界で弾こうとして、氷夜は思い留まった。
 氷の術で水の刃を凍らせ、より鋭い刃に変えて。
 本当は、それを跳ね返すつもりだったが、上手くいかず、仕方なく身を翻し避ける。
 通り過ぎていった刃の行く先を、確認するように見やって。
 氷夜の顔が青くなった。
「うわ…やってもうた」
「あっち、御当主がお茶する言うてた場所…」
 同じように、顔面蒼白になった紫瑞が、忘れていたかった事を口にする。
 絶対に、あそこまで飛んだ。
 小さいが、複数のマナが揺らぎ発動した気配がした。
 絶対に、怒られる。
「…逃げるか」
 決意を込めた氷夜の言葉に、紫瑞も決意を込めた眼差しで返す。

 だいたい、いつものやり取り。  些細な言い争いから始まり、子供らしく術勝負で決着をつけようとした。  本気ではないし、どちらが先に術を出したのかも覚えていない。  いつもの水の刃が紫瑞から飛んできて、結界で弾こうとして、氷夜は思い留まった。  氷の術で水の刃を凍らせ、より鋭い刃に変えて。  本当は、それを跳ね返すつもりだったが、上手くいかず、仕方なく身を翻し避ける。  通り過ぎていった刃の行く先を、確認するように見やって。  氷夜の顔が青くなった。 「うわ…やってもうた」 「あっち、御当主がお茶する言うてた場所…」  同じように、顔面蒼白になった紫瑞が、忘れていたかった事を口にする。  絶対に、あそこまで飛んだ。  小さいが、複数のマナが揺らぎ発動した気配がした。  絶対に、怒られる。 「…逃げるか」  決意を込めた氷夜の言葉に、紫瑞も決意を込めた眼差しで返す。

いい双子の日ということで、氷夜と紫瑞様の子供の頃のお話。
同じ日、数刻違いで生まれた異母兄弟。
同じ養父の元で育ったので、実質双子かと。

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印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「魅せる三つの顔」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

「……不備はないようやな」
 書類を受け取り、ざっと目を滑らせた聖十朗はそう告げる。
 一見、ただ読み飛ばしているように見えるが、実際は細部まで認識している。
 そうでなければ、二代に渡り八剣の次位として当主を支えるなど不可能。
 それだけの能力の高さが、彼にはあった。
 対する当代の紫水は、聖十朗の言葉に僅かに安堵の空気を滲ませた。
 当主として、更には契約した主として、聖十朗よりも明確な上の立場にいるものの、やはり生きた年数、経験の差は埋められない。
 下手に出るつもりはないが、大叔父上として、憧れの術師として、彼に対しては、下には置かない尊敬の念が紫水の中にはあった。
 そんな彼にストレートで受理されれば、やはり嬉しさが先立つ。
「後は頼んだで」
「承りました」
 ご機嫌な当主の言葉を受け、次位が深く頭を下げる。
 そして、彼は鮮やかな所作で和装を捌き、迷いない足取りで部屋を辞した。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「魅せる三つの顔」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 「……不備はないようやな」  書類を受け取り、ざっと目を滑らせた聖十朗はそう告げる。  一見、ただ読み飛ばしているように見えるが、実際は細部まで認識している。  そうでなければ、二代に渡り八剣の次位として当主を支えるなど不可能。  それだけの能力の高さが、彼にはあった。  対する当代の紫水は、聖十朗の言葉に僅かに安堵の空気を滲ませた。  当主として、更には契約した主として、聖十朗よりも明確な上の立場にいるものの、やはり生きた年数、経験の差は埋められない。  下手に出るつもりはないが、大叔父上として、憧れの術師として、彼に対しては、下には置かない尊敬の念が紫水の中にはあった。  そんな彼にストレートで受理されれば、やはり嬉しさが先立つ。 「後は頼んだで」 「承りました」  ご機嫌な当主の言葉を受け、次位が深く頭を下げる。  そして、彼は鮮やかな所作で和装を捌き、迷いない足取りで部屋を辞した。

 そうして、部屋には紫水以外誰もいなくなる。
 機密の書類を扱うとて、人払いしたから当然だ。
 それでも孤独な静寂を感じないのは、襖のすぐ向こうに使用人が待機しているから。
 気配はあるが、人の目はない。
 これ幸いと、彼は腕を高く上げて背筋を伸ばした。
 伸ばされた腕に沿って、はらり、と着物の袖が滑るように落ちる。
 乱れる袖を対価に、凝り固まった体がぐぅっと伸びて、呼吸が深くなり、神経が和らいでいく。
 その感覚をじっくりと味わいながら心身を安め、彼は雪見障子に目を向けた。
 ガラスの向こうに広がるのは、緑茂る初夏の庭だ。
 本家の中央に作られた広い中庭とは違い、小休憩時に当主が気分を休ませる為だけに作られた小さな…八剣としては、こじんまりとした庭。
 当然、今は当代の好みに合わせ整えられている。
 何代もの当主の目を楽しませてきた緑を少し削り、奥に岩を重ねた小滝を作っ

 そうして、部屋には紫水以外誰もいなくなる。  機密の書類を扱うとて、人払いしたから当然だ。  それでも孤独な静寂を感じないのは、襖のすぐ向こうに使用人が待機しているから。  気配はあるが、人の目はない。  これ幸いと、彼は腕を高く上げて背筋を伸ばした。  伸ばされた腕に沿って、はらり、と着物の袖が滑るように落ちる。  乱れる袖を対価に、凝り固まった体がぐぅっと伸びて、呼吸が深くなり、神経が和らいでいく。  その感覚をじっくりと味わいながら心身を安め、彼は雪見障子に目を向けた。  ガラスの向こうに広がるのは、緑茂る初夏の庭だ。  本家の中央に作られた広い中庭とは違い、小休憩時に当主が気分を休ませる為だけに作られた小さな…八剣としては、こじんまりとした庭。  当然、今は当代の好みに合わせ整えられている。  何代もの当主の目を楽しませてきた緑を少し削り、奥に岩を重ねた小滝を作っ

て、細い小川を通した。
 当代になってから、鯉の元気がより増したというのは庭師の談。
 常に止まることのない清らかな水を流す川は、池で泳ぐ鯉を、それを見る者の心を灌いでいる。
 紫水は腰を上げると、床の間に鞘に入れられたまま飾られていた打刀を手に取った。
 磨かれた紫紺色の漆塗りの鞘には、八剣と紫水の個人紋が金色で刻まれており、それを邪魔せぬように水色の柄巻、同色の下緒が結ばれている。
 それはまるで、古く長く続いた庭に清流を添える様。
 代々八剣の色とされる紫色を包する鞘に、紫水の水色が添えられていた。
 彼は慣れた手つきで、すらり、と刀を抜く。
 美しい白い波紋を載せた銀色の刀身が現れ、周囲をその身に映しこんだ。
 模擬刀ではない。
 正真正銘の真剣。
 紫水が当主になった暁に打たせた、専用の刀だ。

て、細い小川を通した。  当代になってから、鯉の元気がより増したというのは庭師の談。  常に止まることのない清らかな水を流す川は、池で泳ぐ鯉を、それを見る者の心を灌いでいる。  紫水は腰を上げると、床の間に鞘に入れられたまま飾られていた打刀を手に取った。  磨かれた紫紺色の漆塗りの鞘には、八剣と紫水の個人紋が金色で刻まれており、それを邪魔せぬように水色の柄巻、同色の下緒が結ばれている。  それはまるで、古く長く続いた庭に清流を添える様。  代々八剣の色とされる紫色を包する鞘に、紫水の水色が添えられていた。  彼は慣れた手つきで、すらり、と刀を抜く。  美しい白い波紋を載せた銀色の刀身が現れ、周囲をその身に映しこんだ。  模擬刀ではない。  正真正銘の真剣。  紫水が当主になった暁に打たせた、専用の刀だ。

 よく手入れされた美しさを確認し、刀を鞘に戻すと、紫水はそれを腰帯に差して身を翻した。
 雪見障子を開けると、湿気を含んだ熱気が肌にまとわりつく。
 不快さが無いと言えば嘘になるが、爽やかな緑と小川の冷気がその不快さを和らげてくれる。
 部屋から飛び出す開放感。
 広大とは言えないが、生命力溢れる自然の一端は、紫水の心を僅かながら少年に戻した。
 備え付けの草履を履いて庭に降り、庭の中でも僅かに開いた場所に立つ。
 その立ち姿は、何も構えることのない自然体に見える。
 だが、手練れの術者達が見たならば口を揃えて言うだろう。
『隙が無い』と。
 口元に僅かな笑みを浮かべ、すぅっと紫水が動いた。
 腰に差した打刀に手が添えられ、利き手が柄を掴んで滑るように横に動く。
 一閃。

 よく手入れされた美しさを確認し、刀を鞘に戻すと、紫水はそれを腰帯に差して身を翻した。  雪見障子を開けると、湿気を含んだ熱気が肌にまとわりつく。  不快さが無いと言えば嘘になるが、爽やかな緑と小川の冷気がその不快さを和らげてくれる。  部屋から飛び出す開放感。  広大とは言えないが、生命力溢れる自然の一端は、紫水の心を僅かながら少年に戻した。  備え付けの草履を履いて庭に降り、庭の中でも僅かに開いた場所に立つ。  その立ち姿は、何も構えることのない自然体に見える。  だが、手練れの術者達が見たならば口を揃えて言うだろう。 『隙が無い』と。  口元に僅かな笑みを浮かべ、すぅっと紫水が動いた。  腰に差した打刀に手が添えられ、利き手が柄を掴んで滑るように横に動く。  一閃。

全文おいて逃走します。
紫水と聖十朗の主従話。

#EscapeGoat
#文体が好きな人がファンになってくれたら嬉しいので冒頭の文を置いて逃走 #文庫ページメーカー sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_b...

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付記に「trick or treat!」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

「「「「trick or treat!」」」」
 出先から戻ったシャオを迎えたのは、黒猫、フランケンシュタイン、狼男ならぬ狼女、ミイラ男。
 愉快な怪物達で溢れた事務所は、もはや仕事どころではなさそうだ。
「元気だなぁ、お前ら。ほら、菓子やるから茶でも淹れてこい」
 そう言いながらシャオが紙袋を掲げると、黄色い悲鳴が上がり、怪物達が群がった。
「やったあ!」
「これは、あの有名店のマカロン!?」
「え、今日は予約限定でしたよね?」
「クッキーもあるじゃないの! さっすがシャオ♪」
「お茶入れてきます!」
 そう言って給湯室にかけていく狼女、ことリタのあとを、「手伝います」と慌てて黒猫に扮したポムグラニットがついていく。
 それを眺めつつ、シャオは一人輪の外にいた輝夜に近づいた。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「trick or treat!」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 「「「「trick or treat!」」」」  出先から戻ったシャオを迎えたのは、黒猫、フランケンシュタイン、狼男ならぬ狼女、ミイラ男。  愉快な怪物達で溢れた事務所は、もはや仕事どころではなさそうだ。 「元気だなぁ、お前ら。ほら、菓子やるから茶でも淹れてこい」  そう言いながらシャオが紙袋を掲げると、黄色い悲鳴が上がり、怪物達が群がった。 「やったあ!」 「これは、あの有名店のマカロン!?」 「え、今日は予約限定でしたよね?」 「クッキーもあるじゃないの! さっすがシャオ♪」 「お茶入れてきます!」  そう言って給湯室にかけていく狼女、ことリタのあとを、「手伝います」と慌てて黒猫に扮したポムグラニットがついていく。  それを眺めつつ、シャオは一人輪の外にいた輝夜に近づいた。

 定時も終えた時間だと言うのに、騒がしく賑やかな事務所に、帰らず残っている。
 大っぴらにはしていないが、甘い物好きな彼は、こうなることを予想していた筈だ。
 シャオはニヤニヤと笑いながら、不機嫌そうな輝夜に声をかける。
「お前はやらねぇの?」
「あ?」
「trick or treat」
 シャオの茶化しに、輝夜は眉を寄せる。
 そして無言で立ち上がると、ミイラ男…一笑へと近づいた。
 悩みに悩んだ末に選んだマカロンを嬉々として手にもつ彼に、無言で出される手。
 よこせ。
「あ、はい」
 その圧を真正面から受けた一笑は、一瞬固まり、慌てて手に持つ菓子を献上し

 定時も終えた時間だと言うのに、騒がしく賑やかな事務所に、帰らず残っている。  大っぴらにはしていないが、甘い物好きな彼は、こうなることを予想していた筈だ。  シャオはニヤニヤと笑いながら、不機嫌そうな輝夜に声をかける。 「お前はやらねぇの?」 「あ?」 「trick or treat」  シャオの茶化しに、輝夜は眉を寄せる。  そして無言で立ち上がると、ミイラ男…一笑へと近づいた。  悩みに悩んだ末に選んだマカロンを嬉々として手にもつ彼に、無言で出される手。  よこせ。 「あ、はい」  その圧を真正面から受けた一笑は、一瞬固まり、慌てて手に持つ菓子を献上し

た。
「こらこらこらこら。先輩にたかるんじゃねぇ」
 苦笑したシャオは、一笑のマカロンが輝夜の手の上に載る前に、スッと別のマカロンを載せる。
 ついでにクッキーも載せるのは、面倒見の良さか。
 輝夜は菓子さえもらえれば用はないと言うように、やや不機嫌さの和らいだ無表情で事務所を出て行った。
 きっとこのまま帰路に着くのだろう。
「可愛げがあるんだかないんだか」
 それを見送るシャオの呟きに答える者はいない。
 そして輝夜と入れ替わるように、九龍が秘書のユーイェンを伴って外から帰ってきた。
「賑やかだネ」
「あ、社長、ユーイェンさん、おかえりなさい」
「ただイマ?」

た。 「こらこらこらこら。先輩にたかるんじゃねぇ」  苦笑したシャオは、一笑のマカロンが輝夜の手の上に載る前に、スッと別のマカロンを載せる。  ついでにクッキーも載せるのは、面倒見の良さか。  輝夜は菓子さえもらえれば用はないと言うように、やや不機嫌さの和らいだ無表情で事務所を出て行った。  きっとこのまま帰路に着くのだろう。 「可愛げがあるんだかないんだか」  それを見送るシャオの呟きに答える者はいない。  そして輝夜と入れ替わるように、九龍が秘書のユーイェンを伴って外から帰ってきた。 「賑やかだネ」 「あ、社長、ユーイェンさん、おかえりなさい」 「ただイマ?」

 ちょうどお茶を持って事務組が戻ってきたところで、彼らは目を合わせ、息をそろえて九龍を囲んだ。
「「「「trick or treat!」」」」
「ふふ。ハイ、お菓子ダヨ」
「きゃー! ハロウィン限定チョコ!」
「こっちはこの前テレビでやってた焼き菓子ですよ」
「やーん、社長のセンスもイケてるぅ」
「こっちもマジうまそうっすね!」
 新たな獲物に歓喜の声をあげる社員達を笑顔で見ながら、九龍はユーイェンに目を向ける。
「ほら、ユーイェンも、言うことがあるデショ?」
「……」
 言わないと食べさせないぞ。
 そう言わんばかりの飼い主の視線に、ユーイェンは僅かばかり沈黙する。
 別に菓子はどちらでも良いが、ここで言えばこの主人はとても喜ぶ。

 ちょうどお茶を持って事務組が戻ってきたところで、彼らは目を合わせ、息をそろえて九龍を囲んだ。 「「「「trick or treat!」」」」 「ふふ。ハイ、お菓子ダヨ」 「きゃー! ハロウィン限定チョコ!」 「こっちはこの前テレビでやってた焼き菓子ですよ」 「やーん、社長のセンスもイケてるぅ」 「こっちもマジうまそうっすね!」  新たな獲物に歓喜の声をあげる社員達を笑顔で見ながら、九龍はユーイェンに目を向ける。 「ほら、ユーイェンも、言うことがあるデショ?」 「……」  言わないと食べさせないぞ。  そう言わんばかりの飼い主の視線に、ユーイェンは僅かばかり沈黙する。  別に菓子はどちらでも良いが、ここで言えばこの主人はとても喜ぶ。

皆のお兄ちゃんしてるシャオもどうぞ。
裏社会の何でも屋な崑崙だけど、事務所はわりと和気あいあいとしてる。
輝夜様の避難先でもある。

#EscapeGoat #いい兄さんの日 #文庫ページメーカー sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_b...

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双龍のお話。
可愛い弟のお願いは、どんな手を使ってでも成し遂げるのがこのおにーちゃんです。

最後ちらっと匂わせあるだけだけど、一応ラベルつけとくね。

※BLです

#EscapeGoat #いい兄さんの日

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サッと上げられそうだった奴。
シャオと九龍様(雨炎)の、通称『双龍』。
紫水と知り合って、島国に遊びに来た時のお話。

『崑崙』は双龍が立ち上げた会社。
モノでもヒトでもご用意します……な、表も裏もそこそこ大きな会社です。

#EscapeGoat #いい兄さんの日

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付記に「ささやかな暗号」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

 それは、とある日の昼下がり。
 出先から戻ってきたアズールは、部下から渡されたメモを見て首をかしげた。
 お世辞にも綺麗とはいい難い筆跡。
 見慣れた文字は、伴侶であり、上司であるバンディのものだ。
「閣下が、フェデルタ司教に渡してほしいと……何かの暗号ですか?」
 部下がそう言うのも無理はない。
 メモの文章は、手紙のように他愛無い内容が書かれているだけなのだ。
 遠方の友に出すようなその内容は、日々一緒に暮らしているどころか、毎日同伴出勤し、肩を並べて仕事をしている相手に出すにはふさわしくない。
 手紙を眺めていたアズールは、小さく一つ溜息を零して席を立った。
「司教?」
「ちょっと給湯室に行ってきます。直ぐに戻りますから、そのままで」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「ささやかな暗号」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  それは、とある日の昼下がり。  出先から戻ってきたアズールは、部下から渡されたメモを見て首をかしげた。  お世辞にも綺麗とはいい難い筆跡。  見慣れた文字は、伴侶であり、上司であるバンディのものだ。 「閣下が、フェデルタ司教に渡してほしいと……何かの暗号ですか?」  部下がそう言うのも無理はない。  メモの文章は、手紙のように他愛無い内容が書かれているだけなのだ。  遠方の友に出すようなその内容は、日々一緒に暮らしているどころか、毎日同伴出勤し、肩を並べて仕事をしている相手に出すにはふさわしくない。  手紙を眺めていたアズールは、小さく一つ溜息を零して席を立った。 「司教?」 「ちょっと給湯室に行ってきます。直ぐに戻りますから、そのままで」

 そう席を外して一〇分後。
 甘く香ばしい匂いを放つココアの入ったカップを手に、アズールは枢機卿の仮眠室へと入っていった。
 このメモの、どこにそんな文字があると言うのか。
 縦に横にとメモを回転させて目を眇める部下に、戻ってきたアズールは笑顔で答えを告げた。
「この文の頭文字と、末尾の文字を繋げると、『KOKOA NOMITAI』。
 これは主に島国で使われているローマ字読みで、『ここあ のみたい』。
 ココアが飲みたいという意味になるんですよ」
 簡単ではあるが、語学力を必要とする暗号。
 それに数秒で気づいてしまう第一秘書の能力の高さに、部下はしきりに感心するしかない。
「さすがですね……この暗号はよく使われるんですか?」
「島国の言葉をつかうのは初めてですね。

 そう席を外して一〇分後。  甘く香ばしい匂いを放つココアの入ったカップを手に、アズールは枢機卿の仮眠室へと入っていった。  このメモの、どこにそんな文字があると言うのか。  縦に横にとメモを回転させて目を眇める部下に、戻ってきたアズールは笑顔で答えを告げた。 「この文の頭文字と、末尾の文字を繋げると、『KOKOA NOMITAI』。  これは主に島国で使われているローマ字読みで、『ここあ のみたい』。  ココアが飲みたいという意味になるんですよ」  簡単ではあるが、語学力を必要とする暗号。  それに数秒で気づいてしまう第一秘書の能力の高さに、部下はしきりに感心するしかない。 「さすがですね……この暗号はよく使われるんですか?」 「島国の言葉をつかうのは初めてですね。

 でもまぁ、長いですから」
 さらりと告げる上司の美しい笑顔に軽く頬を染めて。
『これが夫婦か……』と、秘書が思ったかどうかは、定かではない。
 
(終)

 でもまぁ、長いですから」  さらりと告げる上司の美しい笑顔に軽く頬を染めて。 『これが夫婦か……』と、秘書が思ったかどうかは、定かではない。   (終)

さっきのが短かったので、もう一つ。
結婚前も後も実はそんなに関係が変わってない、阿吽の呼吸を見せつける仕事中の二人。

※BLです

#EscapeGoat #いい夫婦の日 #文庫ページメーカー sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_b...

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いい夫婦の日なので、今日はバンディとアズールのお話。
4半世紀一緒にいて、一緒に子育てもしたのに、
結局籍を入れたのは息子が成人した後という、超晩婚な二人。
九死に一生とも言えるような事故や病気を二人で乗り越えてきた、最強の夫婦で、相棒。

※BLです。

#EscapeGoat #いい夫婦の日

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付記に「幼月の美」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

 澄んだ秋の空気を感じながら、縁側で月見を楽しむ。
「まんまるお月様やぁ」
 足をぶらぶらとさせながら、歓喜の声を上げるのは、まだ幼い紫水。
 その手には、丸い月見団子。
 ほんのり甘いそれを口に頬張り、時折隣の輝夜の口にも放り込む。
 普段なら行儀が悪いと怒られる行為も、ここでは目を瞑って、無邪気で愛らしい仕草にかわる。
 そんな幼く愛らしい姪孫を見下ろしながら、輝夜は笑って言った。
「月が綺麗ですね」
 驚いた紫水が、輝夜を見る。
 意味が分かるのか。
 幼くとも、当主候補の一人として高い教養を学んでいる紫水には簡単な揶揄だったらしい。
 水色の髪が、秋風に揺れる。
 ふわり、と微笑んだ瞳は鮮やかな紫。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「幼月の美」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  澄んだ秋の空気を感じながら、縁側で月見を楽しむ。 「まんまるお月様やぁ」  足をぶらぶらとさせながら、歓喜の声を上げるのは、まだ幼い紫水。  その手には、丸い月見団子。  ほんのり甘いそれを口に頬張り、時折隣の輝夜の口にも放り込む。  普段なら行儀が悪いと怒られる行為も、ここでは目を瞑って、無邪気で愛らしい仕草にかわる。  そんな幼く愛らしい姪孫を見下ろしながら、輝夜は笑って言った。 「月が綺麗ですね」  驚いた紫水が、輝夜を見る。  意味が分かるのか。  幼くとも、当主候補の一人として高い教養を学んでいる紫水には簡単な揶揄だったらしい。  水色の髪が、秋風に揺れる。  ふわり、と微笑んだ瞳は鮮やかな紫。

 幼い顔立ちに浮かぶのは、艶やかで蠱惑的で、視線も、思考も、全て奪っていく笑み。
 薄く赤い唇が緩やかに動いて、空気を震わせる。
「死んでもええわ」
 声が、耳に届いて、それが返しだと気づいて、輝夜は漸く紫の瞳から視線を逸らせた。
 ほんの一瞬、呑まれた自分を誤魔化すように、小さな額を小突く。
「生意気や」
「輝夜が言い出したんやろ」
 言葉は生意気だが、その顔は楽しそうに笑っている。
 その顔に、もうさっきまでの大人びたものは無い。
 それに無意識に安堵して、輝夜は団子を一つずつ、紫水と自分の口に放り込んだ。
 
(終)

 幼い顔立ちに浮かぶのは、艶やかで蠱惑的で、視線も、思考も、全て奪っていく笑み。  薄く赤い唇が緩やかに動いて、空気を震わせる。 「死んでもええわ」  声が、耳に届いて、それが返しだと気づいて、輝夜は漸く紫の瞳から視線を逸らせた。  ほんの一瞬、呑まれた自分を誤魔化すように、小さな額を小突く。 「生意気や」 「輝夜が言い出したんやろ」  言葉は生意気だが、その顔は楽しそうに笑っている。  その顔に、もうさっきまでの大人びたものは無い。  それに無意識に安堵して、輝夜は団子を一つずつ、紫水と自分の口に放り込んだ。   (終)

今日はめっちゃ短い、月のお話。

紫水10歳くらい(もうちょっと幼いかも)、輝夜様40代くらいかなぁ。

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3 2 0 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「名呼び」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

 本家の、すみっこ。
 御当主の……最愛の祖父がいる部屋から遠い場所。
 その縁側で、紫煙を燻らせる男が一人。
 八剣では珍しい、洋服を身に纏った、似せ紫の綺麗な男だ。
 紫水は、おじいさまに顔を見せた後、大抵ここにも顔を出す。
「輝夜大叔父上」
「……また来たんか、紫水」
 気配でわかっていたのだろう。
 声をかけると、男は笑って、ちょいちょいと手招きしてくれた。
 それに嬉しくなって、紫水は駆けよる。
 そのまま、体にタックルをかけるように突進するのはご愛敬。
 小さな、しかし鍛えた体に体当たりをかけられても、同じように……否、それ以上に鍛えた体はびくともしなかった。
「元気やなぁ」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「名呼び」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  本家の、すみっこ。  御当主の……最愛の祖父がいる部屋から遠い場所。  その縁側で、紫煙を燻らせる男が一人。  八剣では珍しい、洋服を身に纏った、似せ紫の綺麗な男だ。  紫水は、おじいさまに顔を見せた後、大抵ここにも顔を出す。 「輝夜大叔父上」 「……また来たんか、紫水」  気配でわかっていたのだろう。  声をかけると、男は笑って、ちょいちょいと手招きしてくれた。  それに嬉しくなって、紫水は駆けよる。  そのまま、体にタックルをかけるように突進するのはご愛敬。  小さな、しかし鍛えた体に体当たりをかけられても、同じように……否、それ以上に鍛えた体はびくともしなかった。 「元気やなぁ」

「ふふ」
 呆れたような言葉も、紫水にとっては誉め言葉だ。
 そうしてひとしきり、大好きな大叔父のぬくもりを堪能して、二人は縁側に並んで腰を落ち着けた。
「そういや、式神を使わせてもらったんやって?」
「うん。あんま強い奴やないけど、ちゃんと使えたで」
「そうかそうか。……また、一人前に一歩近づいたなぁ」
 くしゃり、と輝夜が、紫水の頭を撫でる。
 八剣の中でも、かなり成長の早い方だろう。
 普通は、その修行に移るまでに、もう二,三年かかるはずだ。
 それだけ、優秀だという証か。
 もじもじと着物の袖をそろえ、握りしめて照れる姿は、愛くるしいだけではないのだと。
 ほんの僅か、幼子を見下す似せ紫の目に宿る色が変わる。

「ふふ」  呆れたような言葉も、紫水にとっては誉め言葉だ。  そうしてひとしきり、大好きな大叔父のぬくもりを堪能して、二人は縁側に並んで腰を落ち着けた。 「そういや、式神を使わせてもらったんやって?」 「うん。あんま強い奴やないけど、ちゃんと使えたで」 「そうかそうか。……また、一人前に一歩近づいたなぁ」  くしゃり、と輝夜が、紫水の頭を撫でる。  八剣の中でも、かなり成長の早い方だろう。  普通は、その修行に移るまでに、もう二,三年かかるはずだ。  それだけ、優秀だという証か。  もじもじと着物の袖をそろえ、握りしめて照れる姿は、愛くるしいだけではないのだと。  ほんの僅か、幼子を見下す似せ紫の目に宿る色が変わる。

 小さな、小さな黒い影。
 しかし、それが形を成す前に、紫水が声を上げた。
「大叔父上」
 決意を込めた、しかし純粋な眼差しに、瞬時に影が霧散する。
 紫の視線は、上を見ない。
 それに僅かに安堵しながら、輝夜は優しい声を出した。
「どないした?」
「あの、ちょっと、一人前に近づいたし……これからは、大叔父上の事、名前で、呼んでもええ?」
「名前で、か?」
「ダメ……?」
 揺らぐ声。
 子供らしいそれに、どうして否といえるだろう。
 だが。ここは礼儀に厳しい家だ。

 小さな、小さな黒い影。  しかし、それが形を成す前に、紫水が声を上げた。 「大叔父上」  決意を込めた、しかし純粋な眼差しに、瞬時に影が霧散する。  紫の視線は、上を見ない。  それに僅かに安堵しながら、輝夜は優しい声を出した。 「どないした?」 「あの、ちょっと、一人前に近づいたし……これからは、大叔父上の事、名前で、呼んでもええ?」 「名前で、か?」 「ダメ……?」  揺らぐ声。  子供らしいそれに、どうして否といえるだろう。  だが。ここは礼儀に厳しい家だ。

 子供とはいえ、当主の孫という、本家に近い血筋の人間が、礼を欠く行為は許されない。
 だから。
「……二人きりの時だけな」
 輝夜は、そう、悪だくみをするように答える。
 ニヤリと笑って。
 ふわぁっと、空気が溶けた。
 顔を上げた紫水が、嬉しそうに笑って。
「かぐや」
 名を呼ぶ。
 柔らかな、鈴のような声。
 この声を凛と鳴らして、水のように透明に澄んだマナを使って。
 借り物の、訓練用の式神を調伏しだのだろうか。
 笑顔に癒されつつ、輝夜は思う。

 子供とはいえ、当主の孫という、本家に近い血筋の人間が、礼を欠く行為は許されない。  だから。 「……二人きりの時だけな」  輝夜は、そう、悪だくみをするように答える。  ニヤリと笑って。  ふわぁっと、空気が溶けた。  顔を上げた紫水が、嬉しそうに笑って。 「かぐや」  名を呼ぶ。  柔らかな、鈴のような声。  この声を凛と鳴らして、水のように透明に澄んだマナを使って。  借り物の、訓練用の式神を調伏しだのだろうか。  笑顔に癒されつつ、輝夜は思う。

今日はちょーっとだけ不穏な輝夜様と子紫水のお話。
輝夜様に影が滲んでる。

#EscapeGoat #文庫ページメーカー sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_b...

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印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「甲乙つけ難い兄弟」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

 ダンッ、と力強い音を立てて、床に叩きつけられる足。
 一〇キロを越える衣装を身につけながら、その身体は不安定に振れることはなく、悠々と舞う。
 放たれるマナは強く穏やかで、まるで眩しい春の陽射しのように見るものを包み込み熱くさせる。
 息を呑む美しい舞。
 その隙間を縫うように吐く観者の息に色が乗ってしまうのは、舞い手のもつ色気にやられたか。
 一〇代の育ち盛りでこの色気。
 成人すれば、如何程のものか。
 期待と畏怖に、身体の芯が痺れる。
 しかし、それに溺れ、魅入ろうとする意識は、凛としたマナに引き戻された。
 冷たく澄んだ清流。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「甲乙つけ難い兄弟」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  ダンッ、と力強い音を立てて、床に叩きつけられる足。  一〇キロを越える衣装を身につけながら、その身体は不安定に振れることはなく、悠々と舞う。  放たれるマナは強く穏やかで、まるで眩しい春の陽射しのように見るものを包み込み熱くさせる。  息を呑む美しい舞。  その隙間を縫うように吐く観者の息に色が乗ってしまうのは、舞い手のもつ色気にやられたか。  一〇代の育ち盛りでこの色気。  成人すれば、如何程のものか。  期待と畏怖に、身体の芯が痺れる。  しかし、それに溺れ、魅入ろうとする意識は、凛としたマナに引き戻された。  冷たく澄んだ清流。

 山奥の滝のような勢いの舞と、それでいて濁りの全く感じない清らかなマナ。
 先程感じた無自覚の劣情を暴かれたように、身が引き締まる。
 陽を舞う踊り手に引けを取らず、かと言ってただぶつかろうとするにあらず。
 ともすれば全てを飲み込む陽を抑え、しっかりとした土台のある動きで支える隠。
 逆に、全てを凍らせんばかりの隠の舞を、温かな陽が制している。
 最初から最後まで、一体感のある陰陽の舞を見せられた者の感想は、『末恐ろしい』だ。
 最後の締めまで綺麗に決めて、漸く場の空気が普段のものに変わり、傍観者は、これが本番ではなく、練習ですらない、ただの『お遊び』であると思い出す。
「なんや、昼寝するにめっちゃ良さそうな陽やったな」

 山奥の滝のような勢いの舞と、それでいて濁りの全く感じない清らかなマナ。  先程感じた無自覚の劣情を暴かれたように、身が引き締まる。  陽を舞う踊り手に引けを取らず、かと言ってただぶつかろうとするにあらず。  ともすれば全てを飲み込む陽を抑え、しっかりとした土台のある動きで支える隠。  逆に、全てを凍らせんばかりの隠の舞を、温かな陽が制している。  最初から最後まで、一体感のある陰陽の舞を見せられた者の感想は、『末恐ろしい』だ。  最後の締めまで綺麗に決めて、漸く場の空気が普段のものに変わり、傍観者は、これが本番ではなく、練習ですらない、ただの『お遊び』であると思い出す。 「なんや、昼寝するにめっちゃ良さそうな陽やったな」

 貶す…には些か良過ぎる表現で感想を述べる氷夜。
 彼は、先程、『陽の衣装を着て』、『隠』を踊り切った。
 それに笑い返すのは、『隠の衣装を着て』、『陽』を舞った紫瑞。
「お前のは、夏場の冷たい井戸水みたいで気持ちよかったわ」
 こちらは、手放しで賛辞を述べる。
 二人は晴れ晴れとした顔で息を整えると、ようやく傍観者の方を見た。
「お待たせしました先生」
「見苦しいもん、見せてすいませんでした」
「いや…よく踊れてた。このまま式に出しても恥ずかしないくらいやわ。隠れて練習しとったんか?」
 そう思えるほどに、見事な舞だった。
 本来の役も、大人以上に踊りこなす子らではあるが。
 指南役に褒められ、少年達はキョトンとした顔で、顔を見合わせる。
「俺は別にやったことないなぁ」

 貶す…には些か良過ぎる表現で感想を述べる氷夜。  彼は、先程、『陽の衣装を着て』、『隠』を踊り切った。  それに笑い返すのは、『隠の衣装を着て』、『陽』を舞った紫瑞。 「お前のは、夏場の冷たい井戸水みたいで気持ちよかったわ」  こちらは、手放しで賛辞を述べる。  二人は晴れ晴れとした顔で息を整えると、ようやく傍観者の方を見た。 「お待たせしました先生」 「見苦しいもん、見せてすいませんでした」 「いや…よく踊れてた。このまま式に出しても恥ずかしないくらいやわ。隠れて練習しとったんか?」  そう思えるほどに、見事な舞だった。  本来の役も、大人以上に踊りこなす子らではあるが。  指南役に褒められ、少年達はキョトンとした顔で、顔を見合わせる。 「俺は別にやったことないなぁ」

「俺もや。まぁ、ここんとこ毎年、最近は毎日見とったしなぁ」
 来年は逆もおもろいかもな。
 そう語り合う子らの朗らかさとは裏腹に、指南役の術者は肝が冷える思いを抱えた。
 同い年、同じ日に生まれた、片親の血を分けた異母兄弟。
 次の当主は、この二人のどちらかと言われているが、これでは甲乙つけ難すぎる。
 幸いにも、二人は良きライバルではあるが仲は良い。
 無駄な争いが起こらねばいいが。
 願い祈りながら、指南役は本来の舞の練習を始める旨を告げるのだった。
 
(終)

「俺もや。まぁ、ここんとこ毎年、最近は毎日見とったしなぁ」  来年は逆もおもろいかもな。  そう語り合う子らの朗らかさとは裏腹に、指南役の術者は肝が冷える思いを抱えた。  同い年、同じ日に生まれた、片親の血を分けた異母兄弟。  次の当主は、この二人のどちらかと言われているが、これでは甲乙つけ難すぎる。  幸いにも、二人は良きライバルではあるが仲は良い。  無駄な争いが起こらねばいいが。  願い祈りながら、指南役は本来の舞の練習を始める旨を告げるのだった。   (終)

前回氷夜と子紫水の話を書いたので。
今回は若い頃の氷夜と、彼の兄(紫瑞)。
紫水が生まれる……50年以上前のお話。

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付記に「微笑ましさと羨望」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

『しすい』
 その名前を聞いた時、心臓が跳ねた。
 よく晴れた空のような水色の髪。
 鮮やかな紫の瞳。
 容姿は、記憶にある男と似ても似つかない。
 だが、そこにある柔らかくも意志の強そうな瞳、纏う匂いは、確かに遠い血縁だとわかる。
 紫瑞にあやかってつけた名前だと聞いて、あいつはそんなに過去の人になったのかと感慨深さを覚えた。
 かつて隣に生きた兄弟と同じ響きを持つ子供は、真っ直ぐに氷夜を見上げていた。
 半ば睨みつけるように、口を一文字に結んで。
 はて、特に何かした覚えはないのだが。
 無言で見下ろす氷夜に、子供は言った。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「微笑ましさと羨望」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 『しすい』  その名前を聞いた時、心臓が跳ねた。  よく晴れた空のような水色の髪。  鮮やかな紫の瞳。  容姿は、記憶にある男と似ても似つかない。  だが、そこにある柔らかくも意志の強そうな瞳、纏う匂いは、確かに遠い血縁だとわかる。  紫瑞にあやかってつけた名前だと聞いて、あいつはそんなに過去の人になったのかと感慨深さを覚えた。  かつて隣に生きた兄弟と同じ響きを持つ子供は、真っ直ぐに氷夜を見上げていた。  半ば睨みつけるように、口を一文字に結んで。  はて、特に何かした覚えはないのだが。  無言で見下ろす氷夜に、子供は言った。

「輝夜は、私のや。白夜の君にはやらへんです」
 キリッと告げる言葉に、思わず笑みが浮かぶ。
「そんな予定も、する気もあらへんけどな」
 きちんと否定しても、子供の警戒心は解けない。
 きっと彼なりに、警戒すべき根拠があるのだろう。
 巻き込まれるのは勘弁だが、微笑ましく思える。
 同時に、輝夜が少し羨ましいと思った。
 今はまだ人寄りだが、輝夜は氷夜と同じで獣の力が濃い。
 主人として認めるかは別として、これほどまでに求められるのは、獣冥利に尽きるだろう。
 そしてそれはきっと、輝夜の心の隙間を埋めてくれるはずだ。
「そんなに欲しいなら、大事にしぃや」
 この子供と同じ名の響きを持つ、唯一認めた男と契約できなかった氷夜。
 彼は羨望を隠して、淡々と、だが穏やかに告げた。

「輝夜は、私のや。白夜の君にはやらへんです」  キリッと告げる言葉に、思わず笑みが浮かぶ。 「そんな予定も、する気もあらへんけどな」  きちんと否定しても、子供の警戒心は解けない。  きっと彼なりに、警戒すべき根拠があるのだろう。  巻き込まれるのは勘弁だが、微笑ましく思える。  同時に、輝夜が少し羨ましいと思った。  今はまだ人寄りだが、輝夜は氷夜と同じで獣の力が濃い。  主人として認めるかは別として、これほどまでに求められるのは、獣冥利に尽きるだろう。  そしてそれはきっと、輝夜の心の隙間を埋めてくれるはずだ。 「そんなに欲しいなら、大事にしぃや」  この子供と同じ名の響きを持つ、唯一認めた男と契約できなかった氷夜。  彼は羨望を隠して、淡々と、だが穏やかに告げた。

「後で後悔せんようにな」
 言われるまでもない。
 そう言いたげな生意気な眼差しで、しっかりと頷く子供に、氷夜は口端をわずかに上げるのだった。
 
(終)

「後で後悔せんようにな」  言われるまでもない。  そう言いたげな生意気な眼差しで、しっかりと頷く子供に、氷夜は口端をわずかに上げるのだった。   (終)

今日は短め。
氷夜と子紫水の可愛い?嫉妬のお話。

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付記に「小さな秋の思い出」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

 夏に比べて随分と涼しくなった、とても天気のいい秋の日。
 修行が休みなのを良い事に、紫水は大好きな輝夜大叔父上の家に遊びに来ていた。
 大叔父上と一緒に、肌寒い早朝から基礎体力をつける修行をして、朝食の後は剣の素振りと形稽古。
 従兄弟の鈴彦には、「休みなのにようやるなぁ」と呆れられそうだが、大好きな輝夜と一緒にやるならば紫水にとっては遊びだ。
 午後からは手合わせしようと話していたが、急な来客があったらしい。
 戻ってくるまで好きにしてていいと言われたので、紫水は修行着のまま、庭を散策することにした。
 辞退はしたが、三位になれるほどの上位術者だ。
 屋敷も、それに付随する庭も広い。
 赤や黄色に色付いた庭を、紫水は駆け回る。
 落ち葉を踏みながら音を立てない様に歩いてみたり。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「小さな秋の思い出」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  夏に比べて随分と涼しくなった、とても天気のいい秋の日。  修行が休みなのを良い事に、紫水は大好きな輝夜大叔父上の家に遊びに来ていた。  大叔父上と一緒に、肌寒い早朝から基礎体力をつける修行をして、朝食の後は剣の素振りと形稽古。  従兄弟の鈴彦には、「休みなのにようやるなぁ」と呆れられそうだが、大好きな輝夜と一緒にやるならば紫水にとっては遊びだ。  午後からは手合わせしようと話していたが、急な来客があったらしい。  戻ってくるまで好きにしてていいと言われたので、紫水は修行着のまま、庭を散策することにした。  辞退はしたが、三位になれるほどの上位術者だ。  屋敷も、それに付随する庭も広い。  赤や黄色に色付いた庭を、紫水は駆け回る。  落ち葉を踏みながら音を立てない様に歩いてみたり。

 綺麗に色付いた紅葉を拾ったり。
 生垣の隙間に、小柄な体を捻じ込ませてみたり。
 気づいたら、彼は見知らぬ場所にいた。
 秋の紅葉と、枯山水に、菊。
 綺麗に整えられたそこは、普段よく遊ぶ庭とは違う、本当に観賞用の庭だ。
 もう何年もここに通っているのに、こんな場所があるなんて知らなかった。
 落ち着いた雰囲気の庭に向こうに、縁側が見える。
 そこに、春がいた。
 性格には、春の色を纏った男。
 桜のような華やかな色ではない。
 けれど、その髪色は間違いなく、春を告げる鳥の代名詞となっている色。
「うぐいす……?」

 綺麗に色付いた紅葉を拾ったり。  生垣の隙間に、小柄な体を捻じ込ませてみたり。  気づいたら、彼は見知らぬ場所にいた。  秋の紅葉と、枯山水に、菊。  綺麗に整えられたそこは、普段よく遊ぶ庭とは違う、本当に観賞用の庭だ。  もう何年もここに通っているのに、こんな場所があるなんて知らなかった。  落ち着いた雰囲気の庭に向こうに、縁側が見える。  そこに、春がいた。  性格には、春の色を纏った男。  桜のような華やかな色ではない。  けれど、その髪色は間違いなく、春を告げる鳥の代名詞となっている色。 「うぐいす……?」

 小さな呟きを零す紫水の方へ、男の視線が向く。
 夜の梅の花のような似せ紫の瞳とかち合って、紫水は慌てて服についた葉っぱを叩き落とす。
 そして、男の方へ駆け寄った。
 偶然とはいえ、こうして会ったのならば挨拶をしなくては。
「聖十朗大叔父上、お久しぶりです」
 ぺこりと頭を下げて、元気よく挨拶を投げる。
 時折祖父の所に遊びに行くと見かけたりはするが、彼と言葉を交わすことは少ない。
 次位として働いている姿はかっこよくて好きだが、大叔父上として接することが少ないのは少し寂しい。
 そこまで考えた紫水は、気づく。
 そうだ、聖十朗大叔父上は、次位としての仕事で来ているのではないか。
 だとしたら、身内として名前を呼んだのは拙いかもしれない。

 小さな呟きを零す紫水の方へ、男の視線が向く。  夜の梅の花のような似せ紫の瞳とかち合って、紫水は慌てて服についた葉っぱを叩き落とす。  そして、男の方へ駆け寄った。  偶然とはいえ、こうして会ったのならば挨拶をしなくては。 「聖十朗大叔父上、お久しぶりです」  ぺこりと頭を下げて、元気よく挨拶を投げる。  時折祖父の所に遊びに行くと見かけたりはするが、彼と言葉を交わすことは少ない。  次位として働いている姿はかっこよくて好きだが、大叔父上として接することが少ないのは少し寂しい。  そこまで考えた紫水は、気づく。  そうだ、聖十朗大叔父上は、次位としての仕事で来ているのではないか。  だとしたら、身内として名前を呼んだのは拙いかもしれない。

 返事が返ってこないのも、己の作法を試しているのかも。
「あ、えっと……鶯の君……?」
 そう思って言い直すと、聖十朗は無言で手を上げた。
 頭を下げる姪孫の方へ、ゆっくりと手を伸ばす。
 少し緊張したが、その動きはゆっくりで、己を害するものではないと悟った紫水は、肩の力を抜く。
 そして、大人しくされるがまま、言葉を待った。
「別に、大叔父上でええ」
 淡々とした言葉。
 そこに感情はあまり見られず、まるで遠くで鳥が囀っているようだと紫水は思う。
 輝夜のような優しさはないけれど、耳に心地よい声だ。
 手が離れていくのに合わせて、顔を上げる。
 大叔父上の大きな手につままれていたのは、叩き落しそびれた葉っぱ。

 返事が返ってこないのも、己の作法を試しているのかも。 「あ、えっと……鶯の君……?」  そう思って言い直すと、聖十朗は無言で手を上げた。  頭を下げる姪孫の方へ、ゆっくりと手を伸ばす。  少し緊張したが、その動きはゆっくりで、己を害するものではないと悟った紫水は、肩の力を抜く。  そして、大人しくされるがまま、言葉を待った。 「別に、大叔父上でええ」  淡々とした言葉。  そこに感情はあまり見られず、まるで遠くで鳥が囀っているようだと紫水は思う。  輝夜のような優しさはないけれど、耳に心地よい声だ。  手が離れていくのに合わせて、顔を上げる。  大叔父上の大きな手につままれていたのは、叩き落しそびれた葉っぱ。

紅葉が綺麗だったので、秋っぽい小話。
かなり最近書いたやつ。
紫水と聖十朗の小さな秋。

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印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「これは、私のもの」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

 紫水には、三人の大好きな大叔父上がいる。
 一人は、最愛の祖父の右腕で、自信に満ち、王者の風格を持った、聖十朗大叔父上。
 一人は、頭が良く、清浄で綺麗なマナを纏う、光司朗大叔父上。
 そして、聖十朗大叔父と同じくらい強く、暖かくて、全てを包む優しい夜のようなマナを纏う、輝夜。
 皆大好きだが、とりわけ輝夜に対しては、親兄弟のように、片時も離れないかのように懐いている。
 だからこそ、不思議だった。
 聖十朗大叔父上と同じくらい強いのに、どうして彼はおじいさまの……八剣当主の隣に並ばないのか。
 正月の儀式も、春の儀式も。
 まだ幼い紫水が当主の姿を拝謁できる場で、輝夜が当主に並んでいるのを見たことがない。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「これは、私のもの」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  紫水には、三人の大好きな大叔父上がいる。  一人は、最愛の祖父の右腕で、自信に満ち、王者の風格を持った、聖十朗大叔父上。  一人は、頭が良く、清浄で綺麗なマナを纏う、光司朗大叔父上。  そして、聖十朗大叔父と同じくらい強く、暖かくて、全てを包む優しい夜のようなマナを纏う、輝夜。  皆大好きだが、とりわけ輝夜に対しては、親兄弟のように、片時も離れないかのように懐いている。  だからこそ、不思議だった。  聖十朗大叔父上と同じくらい強いのに、どうして彼はおじいさまの……八剣当主の隣に並ばないのか。  正月の儀式も、春の儀式も。  まだ幼い紫水が当主の姿を拝謁できる場で、輝夜が当主に並んでいるのを見たことがない。

「そりゃ、辞退したからなぁ」
 疑問をぶつけると、本人はタバコを燻らせ、そう答えた。
 甘い匂い。
 輝夜の匂いが周囲に満ちて、ふわふわして気持ちがいい。
「光司朗か……闇珠がもう少し大きゅうなったらなるやろ」
「そっかぁ」
 紫水はチラリ、チラリと隙を伺うように、隣の男を見上げる。
 綺麗な顔は、庭を見ていてこちらを向かない。
 でも、それでいい。
 これで、堂々と男を見ていられる。
 精悍で、でも子供心にも分かるほど、どこか艶がある男。
 紫煙に煙る似せ紫の髪も、庭を見つめる物憂げな似せ紫の瞳も。
 自分を少し荒く撫でる手も、優しく名前を呼び、凛々しく術を紡ぐ声も。
 何もかもが好きで。好きで。

「そりゃ、辞退したからなぁ」  疑問をぶつけると、本人はタバコを燻らせ、そう答えた。  甘い匂い。  輝夜の匂いが周囲に満ちて、ふわふわして気持ちがいい。 「光司朗か……闇珠がもう少し大きゅうなったらなるやろ」 「そっかぁ」  紫水はチラリ、チラリと隙を伺うように、隣の男を見上げる。  綺麗な顔は、庭を見ていてこちらを向かない。  でも、それでいい。  これで、堂々と男を見ていられる。  精悍で、でも子供心にも分かるほど、どこか艶がある男。  紫煙に煙る似せ紫の髪も、庭を見つめる物憂げな似せ紫の瞳も。  自分を少し荒く撫でる手も、優しく名前を呼び、凛々しく術を紡ぐ声も。  何もかもが好きで。好きで。

「じゃあ、輝夜はおじいさまのや無いんやなぁ。……私が貰ってもええ?」
 ほしい。
 この男が、この存在が。
 それは、尊敬でも、敬愛でも、信頼ですらない。
 これは、私のものだ。と。
 傲慢な八剣の血が、幼い紫水の無意識下で囁く。
 紫の眼で、捉える。
 輝夜が、わらった。
「ボクなんかが欲しいんか? 変わっとるなあ」
 言いながら、紫水の方を見て。
 紫の眼に気付くと、手を伸ばす。
 何かを隠すように、くしゃくしゃと、髪を手荒に撫でる。
 紫水は、その手から逃れるように、顔を伏せたまま、輝夜に突進をかけた。

「じゃあ、輝夜はおじいさまのや無いんやなぁ。……私が貰ってもええ?」  ほしい。  この男が、この存在が。  それは、尊敬でも、敬愛でも、信頼ですらない。  これは、私のものだ。と。  傲慢な八剣の血が、幼い紫水の無意識下で囁く。  紫の眼で、捉える。  輝夜が、わらった。 「ボクなんかが欲しいんか? 変わっとるなあ」  言いながら、紫水の方を見て。  紫の眼に気付くと、手を伸ばす。  何かを隠すように、くしゃくしゃと、髪を手荒に撫でる。  紫水は、その手から逃れるように、顔を伏せたまま、輝夜に突進をかけた。

 腰に抱きつき、グリグリと額を押しつけ、甘い匂いの中に混じる輝夜の匂いを堪能して。
「輝夜が、欲しいんや」
 そう、ねだった。
 
 輝夜の返事が、是でも否でもない。
 幼い紫水が、それに気付くことはなかった。
 
(終)

 腰に抱きつき、グリグリと額を押しつけ、甘い匂いの中に混じる輝夜の匂いを堪能して。 「輝夜が、欲しいんや」  そう、ねだった。    輝夜の返事が、是でも否でもない。  幼い紫水が、それに気付くことはなかった。   (終)

今日の小話。
輝夜様と子紫水。

輝夜は、いたいけな少年の性癖ぶち壊しまくる、親戚のオニーサン枠。

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印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「幼子リレー」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

 ふわふわとした、手触りの良さそうな柔らかな水色の髪。
 鮮やかな紫色の瞳は祖父と同じ色だが、子供特有のくりくりとした大きさは、圧よりも愛らしさが勝る。
 子供用の袴羽織をきちんと着こなし、懐いた叔父の横で緊張した面持ちで立つ紫水は、己の前に立つ三人の男を恐々見上げた。
「これが御当主の孫か」
「随分大きいなったなぁ。3歳やっけ?」
「父親より、紫兄によぅ似とる」
 緑の髪が二人。紫の髪が一人。
 三人とも、同じ紫の目。
 聖十朗、輝夜、光司朗。
 会ったのは初めてではないが、全員、八剣の上位術者と名高い兄弟。
 幼いながらに、粗相があってはならないと、紫水は大人しく口を噤んで立つ。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「幼子リレー」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。  ふわふわとした、手触りの良さそうな柔らかな水色の髪。  鮮やかな紫色の瞳は祖父と同じ色だが、子供特有のくりくりとした大きさは、圧よりも愛らしさが勝る。  子供用の袴羽織をきちんと着こなし、懐いた叔父の横で緊張した面持ちで立つ紫水は、己の前に立つ三人の男を恐々見上げた。 「これが御当主の孫か」 「随分大きいなったなぁ。3歳やっけ?」 「父親より、紫兄によぅ似とる」  緑の髪が二人。紫の髪が一人。  三人とも、同じ紫の目。  聖十朗、輝夜、光司朗。  会ったのは初めてではないが、全員、八剣の上位術者と名高い兄弟。  幼いながらに、粗相があってはならないと、紫水は大人しく口を噤んで立つ。

 ちなみに、よく懐いて甘えている叔父、綾瑪もまた、八剣の上位術者だ。
「俺が御当主に呼ばれとる間、この子の面倒を見てやってください。…ちなみに、これは当主命令なんで」
 にっこりと笑顔で釘刺す綾瑪に、三人は見事に顔を顰める。
 物凄く不満だが、当主命令とあれば従わざるを得ない。
 今頃、命令を出した男は三兄弟を思ってニヤニヤと笑っているだろう。
「綾にいさまは、おでかけ?」
 鈴のなるような声で問いかける甥に、綾瑪は優しく微笑んで頷く。
「せや。ちょっとだけ、おじいさまの所でお仕事してくるから、大叔父上達と遊んどってや」
「おおおじうえ…」
「厳密にはちゃうけどな」
「まぁ、祖父の従弟やし、世代的にはあっとる」
 口々に語る兄弟達に、幼い紫水は混乱し、不安げな顔を見せた。

 ちなみに、よく懐いて甘えている叔父、綾瑪もまた、八剣の上位術者だ。 「俺が御当主に呼ばれとる間、この子の面倒を見てやってください。…ちなみに、これは当主命令なんで」  にっこりと笑顔で釘刺す綾瑪に、三人は見事に顔を顰める。  物凄く不満だが、当主命令とあれば従わざるを得ない。  今頃、命令を出した男は三兄弟を思ってニヤニヤと笑っているだろう。 「綾にいさまは、おでかけ?」  鈴のなるような声で問いかける甥に、綾瑪は優しく微笑んで頷く。 「せや。ちょっとだけ、おじいさまの所でお仕事してくるから、大叔父上達と遊んどってや」 「おおおじうえ…」 「厳密にはちゃうけどな」 「まぁ、祖父の従弟やし、世代的にはあっとる」  口々に語る兄弟達に、幼い紫水は混乱し、不安げな顔を見せた。

 そんな彼を抱き上げ、綾瑪は聖十朗にほい、と渡す。
 そして、にっこり笑顔で「頼みました」と残し、去っていく。
 思わず受け取った聖十朗は、綾瑪の背中を見送った後、ほい、と光司朗に紫水を渡した。
 光司朗もまた、馴染みのない子供の重みを確かめるように抱いた後、ほい、と輝夜に渡す。
 最後に受け取った輝夜もまた、紫水の重みを堪能した後、動きを止めた。
 渡す相手がいない。
 綾瑪はもう、この場から去っている。
 聖十朗は扇を広げて、受け取りを拒否。
 光司朗も無表情で、受け取る気はないと雰囲気が物語っている。
 リレーが終わった雰囲気を察した紫水は、輝夜の腕の中僅かに身動いで収まりをよくした。
 ずり落ちないよう抱え直しただけだが、輝夜がしっかりとその身体を抱

 そんな彼を抱き上げ、綾瑪は聖十朗にほい、と渡す。  そして、にっこり笑顔で「頼みました」と残し、去っていく。  思わず受け取った聖十朗は、綾瑪の背中を見送った後、ほい、と光司朗に紫水を渡した。  光司朗もまた、馴染みのない子供の重みを確かめるように抱いた後、ほい、と輝夜に渡す。  最後に受け取った輝夜もまた、紫水の重みを堪能した後、動きを止めた。  渡す相手がいない。  綾瑪はもう、この場から去っている。  聖十朗は扇を広げて、受け取りを拒否。  光司朗も無表情で、受け取る気はないと雰囲気が物語っている。  リレーが終わった雰囲気を察した紫水は、輝夜の腕の中僅かに身動いで収まりをよくした。  ずり落ちないよう抱え直しただけだが、輝夜がしっかりとその身体を抱

きしめたのも、決め手。
 逞しい胸板に頬を擦り寄せ、服から匂う甘い不思議な香りに頬を緩めて、ほっと緊張を解く。
「懐いたな」
 光司朗の言葉に、否定の声は上がらない。
 輝夜ですら、困惑して言葉も出ない。
「後は任せたで」
「よろしうな」
 じゃ、と踵を返す聖十朗に続いて、光司朗も同じようにくるりと背を向ける。
「ちょ、まてや聖兄上、光」
 焦る輝夜の言葉もなんのその。
 後に残るのは、ささーっと去っていく兄弟の背を、成す術もなく見送った輝夜と。

きしめたのも、決め手。  逞しい胸板に頬を擦り寄せ、服から匂う甘い不思議な香りに頬を緩めて、ほっと緊張を解く。 「懐いたな」  光司朗の言葉に、否定の声は上がらない。  輝夜ですら、困惑して言葉も出ない。 「後は任せたで」 「よろしうな」  じゃ、と踵を返す聖十朗に続いて、光司朗も同じようにくるりと背を向ける。 「ちょ、まてや聖兄上、光」  焦る輝夜の言葉もなんのその。  後に残るのは、ささーっと去っていく兄弟の背を、成す術もなく見送った輝夜と。

幼い頃の紫水小話。
実は紫水が最初に一番懐いたのは、聖十朗ではなく、弟の輝夜。
このころは純粋無垢だった…。

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印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「言祝ぎ~鶯~」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。
画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

「これでひと段落やな」
 全ての儀を終えて控室に戻り、紫水は座って一息つく。
 その顔は、初めての当主としての正式な場を乗り切った安堵に満ちていた。
 ここ数日…否、次代になってからずっと、この日の為に頑張ってきた。
 これが到達点ではないが、一つの区切りではある。
「聖十朗も、お疲れさん」
 微笑み労う紫水が身に着けるのは、堂々と八剣と紫水の紋が描かれた、黒い紋付き袴。
 その重圧に負けることなく着こなす姿を、聖十朗はじっと見つめる。
 幼いころから見てきた、姪孫。
 己を負かし、膝を折らせ、契約した主。
 そして今日、八剣の頂点に立った男。
 聖十朗の纏う空気に気付いた紫水が、笑みを深める。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「言祝ぎ~鶯~」、「@nanaki-s.bsky.social」と記載されています。 画像情報:generated by 文庫ページメーカー / ユーザーアップロード画像 / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 「これでひと段落やな」  全ての儀を終えて控室に戻り、紫水は座って一息つく。  その顔は、初めての当主としての正式な場を乗り切った安堵に満ちていた。  ここ数日…否、次代になってからずっと、この日の為に頑張ってきた。  これが到達点ではないが、一つの区切りではある。 「聖十朗も、お疲れさん」  微笑み労う紫水が身に着けるのは、堂々と八剣と紫水の紋が描かれた、黒い紋付き袴。  その重圧に負けることなく着こなす姿を、聖十朗はじっと見つめる。  幼いころから見てきた、姪孫。  己を負かし、膝を折らせ、契約した主。  そして今日、八剣の頂点に立った男。  聖十朗の纏う空気に気付いた紫水が、笑みを深める。

 見定めるような目を前にして、なお優美に笑うその姿に向き直り、聖十朗は膝をついて頭を下げた。
 深く、深く、畳に頭がつくほどに。
 平伏。
 己の全てを持って、目の前の男を主と認めて。
「お喜び申し上げる」
 一言。
 並みの術者ならば受け止めきれないその一言を、紫水は笑みを消し真正面から受け止めて、僅かに瞼を伏せた。
 圧されたのではない。
 聖十朗の認めた男が、そんな軟なはずはない。
 紫水はゆっくりと、本当にゆっくりと、噛み締める様に再びその口元に笑みを刷いた。
「お前の忠義に期待しとる」

 見定めるような目を前にして、なお優美に笑うその姿に向き直り、聖十朗は膝をついて頭を下げた。  深く、深く、畳に頭がつくほどに。  平伏。  己の全てを持って、目の前の男を主と認めて。 「お喜び申し上げる」  一言。  並みの術者ならば受け止めきれないその一言を、紫水は笑みを消し真正面から受け止めて、僅かに瞼を伏せた。  圧されたのではない。  聖十朗の認めた男が、そんな軟なはずはない。  紫水はゆっくりと、本当にゆっくりと、噛み締める様に再びその口元に笑みを刷いた。 「お前の忠義に期待しとる」

 その一言の重みを受け止め、聖十朗はより頭を深く下げた。
 紫水に対する忠義。
 八剣に対する忠義。
 全てに是を唱えるのではなく、必要とあらば紫水に反することを…討つことすら認める一言。
 そして、聖十朗ならばそれができるという期待を込めた一言。
 その言葉を噛み締めて飲み込んだ聖十朗は、ゆっくりと顔を上げると、ふっと纏う空気を緩めた。
「まぁ、私的な場では今まで通りでええよ」
 ニヤリと、八剣らしい矜持の高い笑みを浮かべて。
「お前の尊敬する大叔父なのは変わらへん」
 そう臆面もなく言い放つ聖十朗に、紫水は屈託なく笑った。
「全く、自分で言うなや」
 本当の事ではあるけれど。

 その一言の重みを受け止め、聖十朗はより頭を深く下げた。  紫水に対する忠義。  八剣に対する忠義。  全てに是を唱えるのではなく、必要とあらば紫水に反することを…討つことすら認める一言。  そして、聖十朗ならばそれができるという期待を込めた一言。  その言葉を噛み締めて飲み込んだ聖十朗は、ゆっくりと顔を上げると、ふっと纏う空気を緩めた。 「まぁ、私的な場では今まで通りでええよ」  ニヤリと、八剣らしい矜持の高い笑みを浮かべて。 「お前の尊敬する大叔父なのは変わらへん」  そう臆面もなく言い放つ聖十朗に、紫水は屈託なく笑った。 「全く、自分で言うなや」  本当の事ではあるけれど。

 最も当主に近い、八剣の術者。
 最も信頼できる、当主の右腕。
 そして、自分に忠誠を誓う、愛する獣。
 そんな聖十朗が自分の大叔父であることが、紫水とって誇らしく、喜ばしい。
 満足げな新当主に忠告するように、聖十朗は片眉を上げた。
「…今はまだ当主も交代したばっかやし次位でええけど、そのうち世代交代はさせるから、早いうちに誰か信頼するの定めや」
 彼が言うことは尤もだ。
 聖十朗はもともと先代当主、紫の右腕でもあった男。
 年齢的にも紫と近く、今回の交代で同時に引退しても不思議はないほどだった。
 それでも残っているのは、彼の面倒見の良さと新当主と契約した獣という立場からだ。

 最も当主に近い、八剣の術者。  最も信頼できる、当主の右腕。  そして、自分に忠誠を誓う、愛する獣。  そんな聖十朗が自分の大叔父であることが、紫水とって誇らしく、喜ばしい。  満足げな新当主に忠告するように、聖十朗は片眉を上げた。 「…今はまだ当主も交代したばっかやし次位でええけど、そのうち世代交代はさせるから、早いうちに誰か信頼するの定めや」  彼が言うことは尤もだ。  聖十朗はもともと先代当主、紫の右腕でもあった男。  年齢的にも紫と近く、今回の交代で同時に引退しても不思議はないほどだった。  それでも残っているのは、彼の面倒見の良さと新当主と契約した獣という立場からだ。

文庫メーカーさんが、直接ポストに対応したらしいので、テストかねて。

紫水と聖十朗の主従小話。

#EscapeGoat #文庫ページメーカー sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_b...

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BrynthOuttaHell - Twitch The scalie version of those youtube channels for cats that are full of squirrels, mice, birds and prey items! Playing indie/narrative/adventure/roguelike games for you live from Hoofers! sponsor/busin...

I'm proud to bring you... another screw around day! Dreams of Aether, Escape Goat, Dishwashing Simulator, ?????????
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#golive #twitch #vtuber #goat #demon #variety #dreamsofaether #dishwashingsim #escapegoat #idontpromisenottoplayundermine

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It's been quite a week.
Breaking down and planting seeds.
I'm remembering who I am, who I am growing into, and why I'm here.
Time to level up again.
#fairyvibes #breakfree #healyourself #selfcare #escapegoat

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*Adds to my vocabulary* 🤗 Shukraan!
#loveislandusa #escapegoat

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